家事とは“どうしよう”と向き合うこと 『対岸の家事』が令和に作られたことは大きな救いに
家事=家の中で起こる「どうしよう」を日々考える愛情
このドラマを観ながら気づいたことがある。それは「家事」とは、炊事、掃除、育児……といった作業のことを指しながら、その実態はこの家で起こる「どうしよう」と向き合うことなんじゃないかということ。
もちろん、ご飯を作ってくれたら嬉しい。でも、それは作業を代わってくれるということ以上に、ご飯が作れないほど「どうしよう」という状態にある自分に気づいてくれたこと。そして、まずはご飯を作ることで元気をつけ、一緒にその「どうしよう」を解決しようと考えてくれる姿勢が嬉しいのだと思う。
実際に、外で働く夫が急に料理をしても、「なんでその手順でやる!?」「いやいや食器を洗いながら作ろうか?」なんてヤキモキして、「結局自分でやったほうが早いしイライラしない」なんてことにもなりかねない。「家事の分担」を希望する声は、作業そのものをお願いしたいというよりも、「自分と同じくらい当事者意識を持って家族を見つめてほしい」という願いなのではないか。
きっと専業主婦の詩穂が、夫の虎朗(一ノ瀬ワタル)に話を聞いてほしいと何度も懇願していたのは、日々起こる小さな「どうしよう」を一緒に考えてほしかったから。子どものこと、ご近所のこと、これからのこと⋯⋯。それはときに生産性のない愚痴のようなものに感じられるかもしれない。しかし、その小さな変化の積み重ねこそが生活そのものだ。
その日その日で状況は変化していく中で、家族がどうしたら幸せに生きられるのかを、日々話さないで、いつ話し合うのだろうかと思わされた。中谷夫婦のように明確なミーティング時間を取っても、すれ違うことがある。毎日顔を合わせていても、詩穂の苦しみに気付けなかった父・純也(緒形直人)のような家も珍しくないだろう。
ドラマの作中では、誰かのために生活を整えることは「愛」だと言うシーンがあったが、なるほどな、と思った。よく家事労働をどれだけの金銭価値があるかと換算されることがあるけれど、その「愛」がいくらかと言われているようでなんだかしっくりこなかったからだ。
どうしたら、みんなが笑顔で過ごせるのか。今日も気持ちよく生きることができるのか。それには、作業部分をアウトソーシングするという選択肢もある。あるいは、ときには仲間と助け合うという選択肢も。家事について考えることは、家族を愛することに直結する。
このドラマをきっかけに、世の中にもっと家事のことを気兼ねなく話し合える空気が漂っていったらいいなと思った。ひょっとしたら対岸にいると思っていた人が、実は自分と同じ当事者だったなんてこともあるかもしれない。あるいは、そこから生まれた余裕によって、冷たい眼差しを向ける自分自身との折り合いもつけられる気がする。そうして、海の上に降る雨がなかったことにならずにすむ未来に繋がっていってほしいと思った。
朱野帰子による小説『対岸の家事』を原作としたヒューマンドラマ。専業主婦の主人公・詩穂が、生き方も考え方も正反対な「対岸にいる人たち」とぶつかり合いながら、自分の人生を見つめ直していく模様を描く。
■配信情報
火曜ドラマ『対岸の家事~これが、私の生きる道!~』
TVer、U-NEXTにて配信中
出演:多部未華子、江口のりこ、ディーン・フジオカ、一ノ瀬ワタル、島袋寛子、田辺桃子、織田梨沙、松本怜生、川西賢志郎、永井花奈、寿昌磨、吉玉帆花、五十嵐美桜、中井友望、萩原護、西野凪沙、美村里江、緒形直人、田中美佐子
原作:朱野帰子『対岸の家事』(講談社文庫)
脚本:青塚美穂、大塚祐希、開真理
プロデューサー:倉貫健二郎、阿部愛沙美
演出:竹村謙太郎、坂上卓哉、林雅貴
編成:吉藤芽衣
製作:TBSスパークル、TBS
©TBS
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