国内アニメーション映画祭、なぜ続々と新設される? 第1回「ANIAFF」から分析

 2022年に第1回が開催され、以後隔年で開催中の「ひろしまアニメーションシーズン」は、平和都市・広島の存在を意識したプログラムを組みつつ、アジア・環太平洋地域のアニメーション作品を集めて、欧米とは違ったアニメーション文化の紹介と振興に一役買っている。

ひろしまアニメーションシーズン2024

 2023年スタートの新潟国際アニメーション映画祭は、長編アニメーションの映画祭という特長を打ち出しつつ、誰もが思い浮かぶディズニー/ピクサーのアニメ映画や、日本の商業アニメ作品とは少し違った長編作品を世界から集めて上映。アニメーションが持つ表現の幅広さを伝えてきた。

 新潟国際アニメーション映画祭ではまた、立ち上げに関わった井上や、ANIAFFでもジェネラル・プロデューサーを務めるジェンコ社長の真木太郎の人脈も活かし、押井守監督や富野由悠季監督の登壇、大友克洋監督や高畑勲監督、今敏監督の関連作品をまとめて上映するレトロスペクティブ部門も実施して、古いファンを喜ばせ新しいファンに再発見の機会を与えてきた。

第3回新潟国際アニメーション映画祭(2025年)

 2014年から始まった「新千歳空港国際アニメーション映画祭」は、空港が会場となっている点こそ異例ながら、作品については短編作品を中心にグランプリや日本作品だけの部門、学生部門、そしてアニメーション作家の発表の場として盛り上がるミュージックビデオ部門を設けて上映。作品やクリエイターの認知度向上に繋げている。商業作品の上映と監督ら関係者のトークもあわせて行い、いわゆるアニメファンの期待にも応えている。

 東京アニメアワードフェスティバル実行委員会と一般社団法人日本動画協会が主催し、東京都が共催に入っているTAAFも、短編作品と長編作品の表彰を行っているが、一方でアニメ功労部門を設けて、日本のアニメ文化やアニメ産業に貢献した人たちの業績を紹介している。2024年には漫画家の鳥山明や監督の高橋良輔ら、2025年も声優の堀内賢雄やアニメーターの友永秀和らが顕彰された。

東京アニメアワードフェスティバル2025に来場した小池百合子東京都知事(左)

 TAFFは、日本のアニメ制作会社が多く集まる東京都の産業振興という面もあって東京都が共催に入っている。TAAF2025には小池百合子東京都知事が来場。「新しいトキワ荘としてアトリエラボを設置したいと考えています。日本の宝となるアニメーターや漫画家が生まれていって、世界に夢と希望と勇気を届けてほしいです」と話して、アニメや漫画の振興に力を入れることをアピールした。

 それぞれが特長を打ち出しながら並立しているアニメーション映画祭の列に、新たに加わるANIAFFは、コンペティション部門こそ他のアニメーション映画祭と重なるところがあるものの、特集上映やニューウェーブ部門における斬新な作品の上映、そしてピッチの実施によってクリエイターの持つクリエイティビティーを世に広め、将来に繋げる未来志向を持ったアニメーション映画祭となりそうだ。

 愛知県と名古屋市が共催に入っている以上、地元の振興にも繋げたいところだろう。名古屋や愛知はアニメーションに携わるクリエイターを数多く輩出している土地柄だ。『コードギアス 反逆のルルーシュ』の谷口悟朗監督や『美少女戦士セーラームーン』『ケロロ軍曹』の佐藤順一監督、『宇宙よりも遠い場所』のいしづかあつこ監督らが出身者として名を連ねる。『スター・ウォーズ:ビジョンズ』Volume3で『BLACK』を監督するアニメーターの大平晋也、世界的なアニメーション作家の山村浩二監督も名古屋出身だ。

 日本のアニメ脚本家として最古参の辻真先も、スタジオジブリを率いる鈴木敏夫プロデューサーも名古屋生まれ。『ドラゴンボール』で漫画とアニメの世界に深くその名を刻む鳥山明は、愛知から世界へと作品を送り出し続けた。こうした”ご当地クリエイター“を積極的に取り上げることで、地域の関心を誘って地元の観客にアピールするようなことが行われるのかが気になるところだ。

 名古屋では女性監督の作品にスポットを当てた「あいち国際女性映画祭」が1996年から開催されており、2019年からアニメーション部門を新設して国内外の女性監督によるアニメーション作品を紹介してきた。2024年からは「どまんなかアニメ映画祭」と銘打って、1980年代の日本のアニメ映画を上映し、関わったクリエイターやプロデューサーがトークを行うイベントも開催している。

 ANIAFFという本格的なアニメーション映画祭の登場が、「ジブリパーク」や「世界コスプレサミット」なり地域出身のクリエイターなりと共振して、大きな波を作り出すことになるのか。すべては12月12日から始まる第1回の内容にかかっている。

■イベント情報
「第1回あいち・なごやインターナショナル・アニメーション・フィルム・フェスティバル」
(英語表記:Aichi Nagoya International Animation Film Festival)
12月12日(金)~17日(水)ミッドランドスクエア シネマ、ミッドランドスクエアシネマ2、109シネマズ名古屋、NAGOYA試写室を中核とした上映施設、名古屋モード学園&HAL名古屋5カ所にて開催予定
主催:あいち・なごやインターナショナル・アニメーション・フィルム・フェスティバル実行委員会
ジェネラル・プロデューサー:真木太郎
フェスティバル・ディレクター:井上伸一郎
アーティスティック・ディレクター:数土直志
上映本数:60〜80本(複数回上映含む)
公式サイト:https://aniaff.com/archive

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