『べらぼう』蔦重と田沼意次の対照的な“言い訳” 桐谷健太は“天才”大田南畝にピッタリ!

 そうして少々勢いの衰えを予感させる意次に対して、伸び盛りの蔦重は南畝に招かれて狂歌の世界へと足を伸ばす。初めて覗いた狂歌の会は、思っていたよりもちゃんとした歌会の雰囲気。「そもそも狂歌と和歌って何が違うの?」なんて、大きな声では聞けない空気が漂う。その場を仕切っていたのは、智恵内子(水樹奈々)と夫婦で狂歌界を牽引していた元木網(ジェームス小野田)。かしこまった様子のまま始まった会だが、お題は「うなぎに寄する恋」と思わず首をかしげてしまうもので、朱楽菅江(浜中文一)が詠んだ歌も〈わが恋は 鰻の見えぬ桶のうちの ぬらぬらふらふら 乾く間もなし〉と、やはりどこかおかしい。

 判者となった南畝が「“ふらふら”ではなく“ムラムラ”としてはいかがか? 鰻はやはりムラムラありたい」なんて大真面目に指南するものだから、蔦重も思わず笑いをこらえる。さながら、笑うのを我慢するバラエティ番組でも観ているかのような気分になるのは、江戸も今もそんなに感覚は変わっていないのかもしれない。

 一方で、南畝が詠んだ狂歌〈あなうなぎ いづくの山のいもとせを さかれて後に 身を焦がすとは〉には、「鰻」と「あな憂(ああつらい)」の掛詞に、「山のいも」に「山芋」を滲ませて「山芋が鰻に化ける(物事が突然に思いもよらないような変化をする)」という例え話の隠語。そして「いもとせ(妹と背※親しい男女の関係の意味)と「背を裂かれている」鰻が、「恋に」「焼かれて」それぞれ「身を焦がす」と、これでもかと技巧が凝らされているから感心する。

 和歌と違って親しみやすく、庶民でも楽しめるが、知識があるほどその面白さが増す。そんな狂歌にすっかり魅了された蔦重は、「あれは流行る。俺が流行らせるぞー!」と大興奮。朝方まで飲まされ、ベロベロに酔いつぶれた蔦重は、迎えた歌麿を抱えて眠りこける。新たな仲間との出会いに心を弾ませ、もしかしたら狂歌本で日本中を熱狂させる夢を見たに違いない。日本一の本屋になるという「言い訳」のもとに仲間を増やしていく蔦重と、治済の「言い訳」に絡め取られていく意次。そんな2人の変わりゆく周囲から目が離せない。

■放送情報
大河ドラマ『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』
総合:毎週日曜20:00〜放送/翌週土曜13:05〜再放送
BS:毎週日曜18:00〜放送
BSP4K:毎週日曜12:15〜放送/毎週日曜18:00〜再放送
出演:横浜流星、小芝風花、渡辺謙、染谷将太、宮沢氷魚、片岡愛之助
語り:綾瀬はるか
脚本:森下佳子
音楽:ジョン・グラム
制作統括:藤並英樹
プロデューサー:石村将太、松田恭典
演出:大原拓、深川貴志
写真提供=NHK

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