『べらぼう』は“カジュアル時代劇”として未来への試金石に 歴史をエンタメにする意義
大奥の女たちの醜聞は徳川家の問題と密接に関わっている。将軍のお世継ぎ問題に端を発しているのだ。十代将軍・家治(眞島秀和)は一橋治斉(生田斗真)とのお世継ぎ争いで無駄に殺し合いが行われることを良しとせず、身を引いてもいいという意思を田沼意次(渡辺謙)に相談する。
この頃の話を『大奥』(よしながふみの漫画が原作の男女逆転大奥)ですでに手掛けている森下佳子。例えば「幕末編」の毒入りカステラのエピソードはこわおもしろかった。陰謀野望が渦巻いて毒殺に次ぐ毒殺が繰り広げられた時代。『べらぼう』でも毒殺が行われる。将軍の息子が謎の死を遂げ、それを手袋に毒が塗ってあったのではないかというミステリー仕立てにしたのは第15回。サブタイトルは「死を呼ぶ手袋」というミステリードラマ調であった。重鎮・松平武元(石坂浩二)や源内がこの世を去ったのも毒ではなかったかという疑惑を残している。
『大奥』に限らず、大河ドラマにも毒殺はつきもので、『光る君へ』(2024年)や『鎌倉殿の13人』(2022年)でも描かれている。毒殺エピソードでとりわけ鮮烈だったのは『麒麟がくる』(2020年)のお茶であろう。斎藤道三(本木雅弘)が娘・帰蝶(川口春奈)の夫・土岐頼純(矢野聖人)の裏切りを知り毒殺を図る。お茶に毒が入っているかもしれない緊張感は格別であった。
毒殺ドラマが視聴者に愛されるように、蔦重たち庶民もきっと、将軍家の噂話を耳にしては、犯人は誰かとか死因は何かとかいろいろ不謹慎な想像を広げて楽しむのだろう。芝居になったり本になったり。庶民の娯楽だったのだろう。それは令和のいまだって変わらない。皇室や政界や芸能界の噂話が庶民の大好物で、週刊誌文化からSNS文化に変わったいま、ますます興味はエスカレートしているようでもある。
陰謀野望渦巻く世界で、第19回では家治と意次の信頼関係が熱く、蔦重とライバルだった鱗形屋(片岡愛之助)の顛末も爽快さがあった。これらには庶民の娯楽のひとつである少年漫画の要素が感じられる。今後、蔦重がビジネスを発展させていき、そのつど、誰かと勝負して、負けた者が蔦重のエネルギーに浄化されていくようなパターンで進行するとしたら、ますますカジュアルで親しみやすいエンタメになりそうだ。歴史を学ぶとかしこまらずとも、カジュアルに時代劇を楽しめるムーブがあってもいいのだろう。『べらぼう』は未来の大河ドラマへの試金石になっている。
参照
※1. https://www.oricon.co.jp/news/2064687/full/
※2. https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/a3ef0517ee952ae32065bcdaf9bfefe9b63b477b
■放送情報
大河ドラマ『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』
NHK 総合にて、毎週日曜20:00〜放送/翌週土曜13:05〜再放送
NHK BSにて、毎週日曜18:00〜放送
NHK BSP4Kにて、毎週日曜12:15〜放送/毎週日曜18:00〜再放送
出演:横浜流星、小芝風花、渡辺謙、染谷将太、宮沢氷魚、片岡愛之助
語り:綾瀬はるか
脚本:森下佳子
音楽:ジョン・グラム
制作統括:藤並英樹
プロデューサー:石村将太、松田恭典
演出:大原拓、深川貴志
写真提供=NHK