『あんぱん』のぶは“お国のために”、嵩は“自由を提唱” 戦争を通して描かれる対照的な正義
図案コンクールで佳作に入選して賞金50円を手にし、気が大きくなった嵩は、いつものカフェから御免与町にいるのぶに電話をかけてきた。場所は柳井家。千尋(中沢元紀)たちが聞いている前でだ。嵩が話したいのはのぶが新聞に掲載されたこと、のぶは“ヤムおんちゃん”こと草吉(阿部サダヲ)が銀座のパン屋「美村屋」で働いていたことについて詳しく聞きたい。しかし、電話の向こうで“健ちゃん”こと、健太郎(高橋文哉)が茶々を入れてくるせいで全く会話にならない。さらにうっすら聞こえてくるのは、自由な「図案科の歌」である。
「ここには自由がある」と話す嵩に、受話器を持つのぶの表情が一気に曇り、次第にひきつっていく。柳井家というお邪魔している身でありながらも、徐々に感情が高まり、最終的には心の底へと抑え込んでいた思いを爆発させる。豪をはじめ、今も戦地で戦っている兵士たちを余所に、嵩は銀座で浮かれ遊んでいると思われても仕方がない。話を聞いていた千尋や千代子(戸田菜穂)たちが、のぶの言葉を支持するほどだ。
これまで、のぶと嵩はぶつかり合いながらも、同じ方向を向いていたが、今回は2人の心が大きくすれ違ってしまっている。当時の世間の風潮としては、のぶが一般的な考えで、嵩が少数派だったはずだが、ポイントはどちらも自身の信じる道、それが“正義”だと思っていること。ただ、当初迷いを持っていたのはのぶの方で、クラスでひとり“考え方”に馴染めない自分に焦り、追い込んでいたよなところもあった。だからこそ、“自由”を提唱する嵩に、自身の心が揺らがぬよう、自分に言い聞かせる部分も少しながらあったのではないかと思う。そんなことを想像させる今田美桜の表情の深み、のぶの幾許かの迷いが見えた気がした。
■放送情報
2025年度前期 NHK連続テレビ小説『あんぱん』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00〜8:15放送/毎週月曜〜金曜12:45〜13:00再放送
BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30〜7:45放送/毎週土曜8:15〜9:30再放送
BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30〜7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:今田美桜、北村匠海、加瀬亮、江口のりこ、河合優実、原菜乃華、細田佳央太、高橋文哉、中沢元紀、大森元貴、二宮和也、戸田菜穂、浅田美代子、吉田鋼太郎、竹野内豊、妻夫木聡、阿部サダヲ、松嶋菜々子
音楽:井筒昭雄
主題歌:RADWIMPS「賜物」
語り:林田理沙アナウンサー
制作統括:倉崎憲
プロデューサー:中村周祐、舩田遼介、川口俊介
演出:柳川強、橋爪紳一朗、野口雄大、佐原裕貴、尾崎達哉
写真提供=NHK