『恋は闇』『キャスター』が問うメディア倫理の現在地 メディアは誰を救い、傷つけるのか
対して『キャスター』は、政治報道の現場で起きる圧力や内的腐敗に踏み込む。物語の中心にいるのは、公共放送から引き抜かれた型破りなキャスター・進藤壮一(阿部寛)。彼が就任したことで、低迷していた夜の報道番組『ニュースゲート』は大きく揺れ始める。
進藤は真実のためなら手段を選ばない。アポなしで政治家に突撃取材を仕掛けたり、官房長官と医療に関するセンシティブな問題で対峙したりと、既存の報道手法に風穴を開けていく。しかし、彼もまた一部の事実を報じないと判断を下す。報じない自由もまた、報道の一部となり得るのか。視聴者は常にその問いを突きつけられている。
総合演出を務める崎久保華(永野芽郁)は、当初こそ進藤に振り回される存在として描かれるが、次第に報道に対する自らの倫理観を育てていく。進藤のやり方に疑問を持ちながらも、彼の中にある矜持にも気づき始めるという、報道現場で働く人間の成長譚にもなっている。
両作品に共通しているのは、現場の人間が何に葛藤し、何を守ろうとしているのかを丁寧に描いている点だ。『恋は闇』では、共感とスクープ、プライバシーと公共性の狭間で、万琴と浩暉が揺れる。『キャスター』では、真実と組織、報道の独立性と報じる主体の矜持がせめぎ合う。また、どちらの作品もサスペンス的要素を的確に織り交ぜることで、倫理という抽象的なテーマをきちんとした輪郭をもって描いている。報道は時に人を救い、時に傷つける。その不確かさと向き合う登場人物の姿に、私たちは自分自身の情報との向き合い方を重ねてしまうのかもしれない。
現代の日本社会において、メディア不信は決して小さな問題ではない。SNS時代において、誰もが発信者となってしまう世界で、報じる責任は一部のメディア人に限られた問題ではなくなっているのだ。もちろん、この記事を書いている筆者もまた、“何をどう伝えるか”という責任から無縁ではいられない。報道とは何か。伝えることとはどういう責任なのか。それは、メディアの現場に立つ者だけでなく、情報を受け取る私たち一人ひとりに返ってくる問いでもある。
だからこそ、こうしたドラマは、自分はどう受け取り、どう反応するかという視点を持つ契機になる。情報をただ“消費”するだけでなく、きっちりと精査し、向き合っていく。今、テレビドラマが提示してくるのは、そうした倫理的な参加を求める視線なのかもしれない。
■放送情報
『恋は闇』
日本テレビ系にて、毎週水曜22:00〜放送
出演:志尊淳、岸井ゆきの、森田望智、白洲迅、望月歩、小林虎之介、浜野謙太、猫背椿、西田尚美、萩原聖人、田中哲司
脚本:渡邉真子
音楽:末廣健一郎
監督:小室直子、鈴木勇馬
プロデューサー:鈴間広枝、能勢荘志、松山雅則
チーフプロデューサー:道坂忠久
制作協力:トータルメディアコミュニケーション
©日本テレビ
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■放送情報
日曜劇場『キャスター』
TBS系にて、毎週日曜21:00〜21:54放送
出演:阿部寛、永野芽郁、道枝駿佑、月城かなと、木村達成、キム・ムジュン、佐々木舞香、ヒコロヒー、山口馬木也、黒沢あすか、堀越麗禾、馬場律樹、北大路欣也(特別出演)、谷田歩、内村遥、加藤晴彦、加治将樹、玉置玲央、菊池亜希子、宮澤エマ、岡部たかし、音尾琢真、高橋英樹
脚本:槌谷健、及川真実、李正美、谷碧仁、守口悠介、北浦勝大
音楽:木村秀彬
プロデュース:伊與田英徳、関川友理、佐久間晃嗣
演出:加藤亜季子、金井紘
©TBS
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