インド映画×ループもの まさかの組み合わせを最高のバランスで仕上げた『政党大会』が必見

 さらに一歩間違えば複雑すぎる話になりそうだが、最後までアクションとサスペンスで観客を置いてけぼりにはしない。これは本作が勧善懲悪としての構造を徹底的に守っているからであろう。シンプルな構造を守れているのは、「州首相の暗殺を阻止せよ」という分かりやすい目的に加え、S・J・スーリヤーが演じる悪役、ダヌシュコディの存在が大きい。スーリヤーは傑作『ジガルタンダ・ダブルX』(2023年)にて、ハッタリだけでギャングと張り合う青年を熱演したが、今回は一転してド直球の極悪警官を好演している。怒りっぽく、絶妙に器が小さく、すべての意味で非常に分かりやすく悪い(それでいてちょっと笑えるのが凄い)。極端な話をすれば、少し話についていけなくても、「今、この人が怒っているということは、主人公サイドはイイ感じなのね」と把握できる、映画内の人間コンパスみたいな役割を果たしている。

 そのようなわけで、本作はタイムループものとして十分に面白いのだが、過去の作品に比べて際立った個性的な魅力がある。それは……他ならぬ、上映時間の長さである。最初に心配ポイントとして挙げたが、むしろこれが本作の良い個性となっている。ループものでは、主人公は何度も何度もやり直しをするわけで。もちろん作中ではテンポよくコミカルに編集されているが、実際問題、とんでもない苦労である。そんな主人公の苦労が長尺で描かれることによって、観客の気持ちも主人公とシンクロしていくのだ。これは上映時間が短いと起きない感情である。私に至っては、クライマックスで真剣に「こんだけ頑張ったんだ! 頼むぜ!」と手を合わせてしまった。インド映画のダイナミックな上映時間だからこそ成立した、リアルなループものの“お疲れ様”感がここにある。このカタルシスは是非とも劇場で味わってほしい。

 本作『政党大会 陰謀のタイムループ』は、分断が深まる社会への真摯なメッセージを込めつつ、アクション、サスペンス、そしてループものの魅力を上手く引き出した1本だ。非常に見事なノンストップエンターテインメントである。

■公開情報
『政党大会 陰謀のタイムループ』
5月2日(金)より、新宿ピカデリーほかにて公開
出演:シランバラサン、S・J・スーリヤー、カリヤーニ・プリヤダルシャン、S・A・チャンドラシェ―カル、Y・G・マヘーンドラン、アラヴィンド・アーカーシュ、カルナーカラン、プレームジ・アマラン
監督:ヴェンカト・プラブ
脚本:ヴェンカト・プラブほか
製作:スレーシュ・カーマーッチ
撮影:リチャード・M・ナーダン
音楽:ユヴァン・シャンカル・ラージャー
配給:SPACEBOX
2021年/インド/タミル語/147分/原題:Maanaadu
©V House Productions
公式サイト:https://spaceboxjapan.jp/seitotaikai/

 

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