レオス・カラックスの新作が観られる喜び 『IT’S NOT ME イッツ・ノット・ミー』に涙

 リアルサウンド映画部の編集スタッフが週替りでお届けする「週末映画館でこれ観よう!」。毎週末にオススメ映画・特集上映をご紹介。今週は、3月に来日したレオス・カラックスにしっかりとサインをもらった宮川が『IT’S NOT ME イッツ・ノット・ミー』をプッシュします。

『IT’S NOT ME イッツ・ノット・ミー』

 たとえ映画がどんな内容であろうと、新作が届けられるだけで満足してしまう映画監督が何人かいる。いわゆる“寡作”の映画監督だ。かつて、レオス・カラックスも間違いなくその1人だった。

 長編初監督作『ボーイ・ミーツ・ガール』(1983年)で鮮烈なデビューを飾り、以降、『汚れた血』(1986年) 、『ポンヌフの恋人』(1991年)、『ポーラX』(1999年)と数年おきに傑作を生み出してきたカラックス。だが、『ポーラX』を最後に、もう彼の新作を観ることはできないのではないかと思っていた。1987年生まれの筆者は、彼の新作をリアルタイムで観るという夢はもう叶わないのだと……。

 長らくそう思っていたなか、数年後に意外な形でカラックスの新作をリアルタイムで観ることになった。カラックスがポン・ジュノ、ミシェル・ゴンドリーと共に参加した、東京が舞台のオムニバス映画『TOKYO!』内の一遍『メルド』だ。当時、それまでのカラックス映画と全く違う作風に大きなショックを受けたのをよく覚えている。「なんなんだ、この映画は」と。あれだけリアリタイムで新作を観ることを楽しみにしていた敬愛する映画監督の新作。そのあまりの酷さにむしろ怒りさえ覚えたが、新作を観ることができただけでも良かったんだと自分に言い聞かせた。

 その数年後、長編映画『ホーリー・モーターズ』(2012年)でカラックスは本格的に復活した。「これぞカラックスだ」と大興奮した。公開当時、助監督の仕事をしていて映画を観る暇なんてほとんどなかったが、仕事をサボってユーロスペースに何度も通った。『メルド』の鬱憤を晴らすかのように、10回以上は観たと思う。

 それからまた数年後、カラックスがリアーナと一緒にミュージカル映画を作るという報道もあったりする中で(結局実現しなかったが)、『アネット』(2021年)が公開された。盟友ドニ・ラヴァン不在の初の英語作品で、カラックスの新境地を感じた。自分は当時すでに今の仕事をしていたが、仕事と切り離してプライベートでカラックスが登壇する舞台挨拶回に何度か通った。

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