『しあわせは食べて寝て待て』が肯定する“前向きな後ろ向き” “涼子様×よね”の嬉しい再会も
自分にできること探しから一旦離れたさとこは、空き部屋を団地の住民向けに時間貸しすることを思いつく。司(宮沢氷魚)や、同じく団地に住む八つ頭(西山潤)のおかげで、立派なレンタルルームを完成させたさとこ。八つ頭は司と一緒で無職らしい。さとこが特別な才能があって羨ましいと思っていた高麗も同じイラストレーターの友人と自分を比べて落ち込むこともあるようで、傍から見ただけではその人が何を抱えているかなんて分からないものだ。
そういう心の柔らかい部分には踏み込まず、一定の距離を保ちながらも、自分のできる範囲で住民同士が助け合う団地のコミュニティが心地良い。なおかつ、誰かの働きを搾取しようとはせず、司がお金で高麗のイラストを買うように、報酬はきっちり払う。お金じゃなくても、野菜やお米とか何かしらの物でお返しする。何気ないシーンだけど、彼らが人を大切にしていることが伝わってきて、観ているこちらも安心するのだ。
さとこが貸し出す部屋は1時間400円。高いと感じるか、安いと感じるかは人それぞれだと思うが、少なくとも最初の利用者である高校生の弓(中山ひなの)にとっては400円を払うだけの価値があった。学校にも家にも居場所のない彼女は、1人になれる場所が欲しかったのだろう。だが、さとこから親に同意を得るように言われた弓はめんどくさくなって、投げやりな態度を取ってしまう。「どうでもいい」が弓の口癖だった。
そんな彼女に、さとこは具合が悪い時に何か壁にぶつかると、とことんネガティブ思考に陥って、全てがどうでもよくなっていた、かつての自分を見る。だけど、おしゃれを諦めていた弓の目が、高麗と訪れた古着屋で輝き出したように、「どうでもいい」と口に出したことは、案外どうでもよくなかったりするものだ。
でも、たとえどうでもよくなかったとしても、「どうでもいい」と言っているうちに、いつか本当にどうでもよくなってしまうから、そこに「なーんて、嘘だけどね」と付け加えて心を持ち直す。副業を始めたことで心労が溜まり、負の感情に引っ張られそうになるさとこ。以前なら自分のことすらどうでもよくて無理に頑張っていたかもしれない。だが、今はどうでもよくないから、できないことをちゃんと認める。ネガティブ・ケイパビリティ。前向きな後ろ向きを、このドラマは肯定してくれる作品だ。
■放送情報
ドラマ10『しあわせは食べて寝て待て』
NHK総合にて、毎週火曜22:00~放送
出演:桜井ユキ、宮沢氷魚、加賀まりこ、福士誠治、田畑智子、中山雄斗、奥山葵、北乃きい、西山潤、土居志央梨、中山ひなの、朝加真由美
原作:水凪トリ『しあわせは食べて寝て待て』
脚本:桑原亮子、ねじめ彩木
音楽:中島ノブユキ
演出:中野亮平、田中健二、内田貴史
制作統括:小松昌代(NHK エンタープライズ)、渡邊悟(NHK)
写真提供=NHK