中島の場合はやや事情が異なる。今作の中島は、青木のほかにもう1人、第九副室長の鈴木克洋も演じる。一人二役の演じ分けが求められるが、単純に別の人物であることにとどまらない。親友の鈴木を自らの手で射殺した薪にとって、青木は亡き友をいやがおうにも思い出させる存在だ。鈴木に酷似していることが、青木と薪の関係性を規定するのである。

　しかし、鈴木は青木ではない。過去と現在の時間軸で生きる鈴木と青木のパーソナリティを理解し、重なり合う人物像を別々の位相で見せること。難役であることは容易に想像がつくが、中島は予想を超える結果で応えた。人間への温かいまなざしを失わないのが青木である。板垣が見抜いた「包容力」が青木にあてはまるとして、ただ巧いだけではない奥行きをそこに加えた。エンパシーの深い演技とも言い換えられるが、『秘密』という作品の根幹にある人間の善性を信じるメッセージを体現した。

　板垣と中島を軸に、門脇麦、高橋努、國村隼ら演技巧者が加わって相乗効果で織り上げた『秘密』は、2人にとってターニングポイントとなる作品である。板垣と中島が原作の薪と青木に二重写しになる瞬間が何度もあった。板垣と中島の間には、無言のうちに交わされたいくつもの言葉にならない感情、“秘密”のやりとりがあったに違いない。見えない心を可視化する今作のMRIのように、演技を通じて、そこにある本物の感情、苦悩を乗り越えて希望を見いだす過程を示してくれた2人に最大限の称賛を贈りたい。

■放送情報
『秘密～THE TOP SECRET～』
カンテレ・フジテレビ系にて、毎週月曜22:00～22:54放送
出演：板垣李光人、中島裕翔、門脇麦、高橋努、鳴海唯、利重剛、眞島秀和、國村隼ほか
原作：清水玲子『秘密-トップ・シークレット-』『秘密 season0』（白泉社『メロディ』連載）
脚本：佐藤嗣麻子
演出：松本佳奈、宝来忠昭、根本和政、稲留武
プロデューサー：豊福陽子、近藤匡、近藤多聞
音楽：小島裕規“Yaffle”
主題歌：「Iris」BUDDiiS（SDR inc.）
オープニング曲：「ナンセンス」Penthouse（ビクターエンタテインメント）
制作協力：C＆Iエンタテインメント
制作著作：カンテレ
©︎カンテレ
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