『HERE 時を越えて』“普通のひとの人生”になぜグッと来るのか “壁目線”好き必見の挑戦作
リアルサウンド映画部の編集スタッフが週替わりでお届けする「週末映画館でこれ観よう!」。毎週末にオススメ映画・特集上映をご紹介。今週は、一度家を引っ越したら長く住み続けたい派の小野瀬が、『HERE 時を越えて』をご紹介します。
『HERE 時を越えて』
私事だが、2年前に引っ越しをした。それまで暮らしていたのは東京・高円寺。12年間の暮らしの中で、今はなき近所の“レンタル落ち”VHSショップで100円で買ってきた映画を何百本も鑑賞したり、行きつけの店で飲みすぎて転んで血まみれになって帰ってきたり、夜中に煙探知機が誤作動して消防車が来たり、新型コロナウイルス流行によるリモートワーク普及以降は“オフィス”にもなったり……。他の人からしたらきっと大したことのない出来事ばかりだが、自分にとっては思い出がたくさん詰まっていて、ロフト付きワンルームが空になった様子を見た瞬間は色々と込み上げるものがあった。
本作は、アメリカのとある場所のとある家で暮らす、何世代もの家族たちの生活を定点カメラで記録し続けた映画だ。
ロバート・ゼメキス監督のもと、脚本のエリック・ロス、主演のトム・ハンクスとロビン・ライトら、第67回アカデミー賞作品賞に輝いた『フォレスト・ガンプ/一期一会』(1994年)のスタッフおよびキャストが再集結し、リチャード・マグワイアのグラフィック・ノベル『Here』を映画化した。
本編は恐竜が走り回る太古の時代から始まり、氷河期、原始時代、植民地時代、独立戦争……とひたすら同じ場所を映し続ける。そして1907年にその場所に建てられた一軒の家のリビングルームが本作のメイン、ゼメキス監督の言葉を借りると「この部屋が主要キャラクター」だ。そして、プロデューサーのデレク・ホーグが言うように「観客は壁」となり、その家で暮らし、そして様々な理由で出ていく家族をひたすら見守り続ける(※)。
各時代に色々な家族が登場し、作中でそれぞれの時代が交差する演出が用いられている。しかし、それがどの時代なのか、彼らはどういった人間なのか、説明的なセリフやテロップなどはない。観客は彼らの会話や窓から覗く風景、ラジオやテレビから聞こえてくる情報から状況を推察する必要がある。