高橋文哉が『少年と犬』で表現した“どうしようもない男”の愛嬌 犬っぽさとの不思議な共鳴

もう1頭の犬が浮かび上がらせる心の旅 『少年と犬』の不思議なシンクロ

 和正にはどこか犬のような愛らしさがある。これは偶然ではなく、物語が求めた必然である。

 東日本大震災を背景とする本作は、(傷ついた人々を通して)人生の脆さを描いた映画でもある。当たり前だった「また明日」はある日突然終わり、すぐ終わるはずだった地獄はずっと足を掴んで離さない。災害や苦難は一度で終わるとは限らず、どれほど素晴らしいゴールに思えても居場所はいずれ失われてしまう。和正にもある辛い運命が待ち受けているのだが、本作はその悲劇をいわば「犬っぽさ」の転換点としても扱っている。(脚本を担当した林民夫がパンフレットで「和正が逆に多聞の護り神になる」と瀬々監督の考えを解釈しているように、)和正と多聞の関係は物語の半ばで反転しているのだ。

 和正にはどこか犬っぽさがあり、それは多聞と一緒にいるから見えてきたものだった。この関係は逆も然りで、彼らの出会いから映画を観始めた我々は、多聞を目にするとき必ず和正の姿も思い浮かべている。まっとうにやり直したいと願い、自分と同じように過ちを犯した人間と手を取り合った優しい青年の面影が、他の人間には見えずとも多聞に寄り添っているのだ。

 言葉が通じぬまま傍らに立つ和正の姿はかつての多聞と同じであり、つまり後半の彼は多聞の護り神=犬に寄り添うもう1頭の犬である。和正は最終的に多聞同様「大切な人の心の中」という居場所を見つけるが、それは彼もまた長い旅を続けてきた証と言えるだろう。

 『少年と犬』は東北から熊本まで5年をかけて旅をした犬の物語であり、その旅に寄り添ったもう1頭の犬の魂の遍歴である。和正に「犬っぽさ」を感じたとき、あなたはいっそうこの映画と犬が好きになっているはずだ。

■公開情報
映画『少年と犬』
全国公開中
出演:高橋文哉、西野七瀬、斎藤工、宮内ひとみ、柄本明、伊原六花、伊藤健太郎、嵐莉菜、木村優来(子役)、栁俊太郎、一ノ瀬ワタル、江口のりこ、渋川清彦、美保純、眞島秀和、手塚理美、益岡徹
原作 : 馳星周『少年と犬』(文春文庫)
監督:瀬々敬久
脚本:林民夫
企画・プロデュース:平野隆
主題歌:「琥珀」SEKAI NO OWARI(ユニバーサル ミュージック)
配給 : 東宝
©2025 映画「少年と犬」製作委員会
公式サイト:https://shonentoinu-movie.jp/
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公式Instagram:https://www.instagram.com/shonentoinu_mv

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