実写版『白雪姫』はなぜ批判を受けたのか? レイチェル・ゼグラーの発言を巡る議論を解説

 映画の外側ではなく、中身にも目を向けてみよう。完成した実写版『白雪姫』は、どのような評価を受けているのだろうか。アメリカの批評サイト「Rotten Tomatoes」によると、批評家によるスコア「Tomatometer」は42%、オーディエンスによるスコア「Popcornmeter」は74%(2025年3月26日現在)。一般客からは一定の評価を得ているものの、批評家筋からは受けが悪い。レビューも辛辣な言葉が並んでいる。

「目には漫画のドルマーク、魂には芸術のかけらもない人たちによって作られた映画だ」(Gurdian/※4)

「ストーリーは乱雑で、トーンは混濁し、テンポは悪い」(BBC/※5)

「アニメの原石を実写化した作品としては最悪ではないかもしれないが、最も味気ない作品の有力な候補ではある。というのも、この映画は間違いなくあなたを眠らせるからだ」(Rolling Stone/※6)

「何もかもが、ディズニーパークの過剰な演出のショーで見るような、仕掛けのある舞台のように見える」(HuffPost/※7)

 筆者自身の感想を述べるならば、「正直そこまで悪い映画には思えなかったし、それなりに楽しんだ」というのが本音だ。7人のこびとたちが「ハイ・ホー」を歌いながら宝石を発掘するシーンは、オリジナルよりも楽しさに溢れていたとすら思っている。とはいえ、「ガル・ガドット姐さんの歌と踊りは正直XXXだったな」とか、「白雪姫が山賊たちを率いて女王と対決する展開が、ちょっと性急すぎるな」とか、いろいろ引っかかるところはある。一番の残念ポイントは、「監督にマーク・ウェブを抜擢した意味は本当にあったのか?」ということだ。

 マーク・ウェブという映画作家は、これまでずっと“喪失”というテーマを描いてきた。『500日のサマー』でも、『アメイジング・スパイダーマン2』でも、『gifted/ギフテッド』でも、そして『さよなら、僕のマンハッタン』でも、「愛する人がいつかいなくなる」という物語が繰り返し変奏され続けてきた。

 そういう視点で『白雪姫』を観てみると、白雪姫が毒リンゴを食べて死んでしまい、7人のこびとたちが“喪失”を感じる場面こそが、最もマーク・ウェブ的主題が高揚する瞬間といえる。むしろ、このシーンのためにマーク・ウェブが起用されたのではないか、と思うほどに。だが、ここには大きな構造的問題がある。オリジナルほど白雪姫とこびとたちの交流が描かれていないため、彼らの“喪失”が非常に薄いものに見えてしまうのだ。

 1937年のオリジナル版の原題は『Snow White and the Seven Dwarfs』。文字通り白雪姫と7人のこびととのやりとりが、ストーリーの根幹を成していた。そして今回のリメイク版の原題は『Snow White』のみ。「Seven Dwarfs」の文字が消えている。こびとたちが映画で占める割合は激減し、その代わりにジョナサンをリーダーとする山賊たちが登場。7人のこびとたちは脇役に追いやられてしまい、同時にマーク・ウェブ的主題が高揚する瞬間も消え去ってしまった。

 おそらくディズニー映画のリメイクを作ることは、最も困難な冒険のひとつだろう。古参ファンと新規ファンを納得させ、保守と革新を併せ持ち、細心の注意を払ってバランスを調整しなければならない。様々な制約、手枷足枷のなかでの映画制作は、想像を絶するプレッシャーに違いない。しかも、どんな映画を作ったとしても絶対に文句を言われるに決まっている(筆者含む)。

 これからもディズニー・スタジオは、偉大なクラシック・アニメーションを現代に蘇らせる試みを続けていくことだろう。そして、批判を浴び続けることだろう。それは決して避けることができない。ディズニー映画は、時代の合わせ鏡のような存在なのだから。

参照
※1. https://www.youtube.com/watch?v=2RVg3yetTE4
※2. https://www.youtube.com/watch?v=9tyxeuN4hBo
※3. https://www.theguardian.com/culture/2022/jan/25/peter-dinklage-disney-remake-snow-white-and-the-seven-dwarfs
※4. https://www.theguardian.com/film/2025/mar/23/snow-white-review-disney-toe-curlingly-terrible-live-action-remake-rachel-zegler-gal-gadot
※5. https://www.bbc.com/culture/article/20250319-film-review-disneys-snow-white-has-a-major-identity-crisis
※6. https://www.rollingstone.com/tv-movies/tv-movie-reviews/snow-white-review-rachel-zegler-gal-gadot-1235297513/
※7. https://www.huffpost.com/entry/snow-white-review_n_67dd7905e4b09b090813e675

■公開情報
『白雪姫』
全国公開中
出演:レイチェル・ゼグラー、ガル・ガドット
監督:マーク・ウェブ
脚本:グレタ・ガーウィグ
音楽:パセク&ポール
プレミアム吹替版声優:吉柳咲良、河野純喜(JO1)、月城かなと、津田篤弘(ダイアン)、諏訪部順一
オリジナル・サウンドトラック:ウォルト・ディズニー・レコード
配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン
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