『名もなき者』で描きたかった天才の苦悩 ジェームズ・マンゴールドが語る“映画”への思い

「かつての日本映画の勢いを取り戻してほしい」

ーーあと聞きたかったことが映画の長さについてです。この作品の尺は141分でしたが、『インディ・ジョーンズと運命のダイヤル』は154分、『フォードvsフェラーリ』は153分、『LOGAN/ローガン』は137分と、あなたがこの10年間で手がけてきた作品はいずれも2時間以上の映画ばかりです。

マンゴールド:映画の長さについて、自分の中で特に意識していることはありません。あえて長くしようとしているわけではないんです(笑)。ただ、映画館での“映画体験”が自然とそうさせているのかもしれません。コロナ禍以降、映画館と観客との関係性が脆くなってしまいました。多くの観客は、あと数カ月待てばストリーミングに入ってくるという理由で、わざわざ映画館に行かなくてもいいと思うようになってしまった。また、10時間あるようなドラマシリーズも競合相手になってきました。昔と比べて、今の観客はより深い映画体験を求めるようになったんだと思います。ただ、『名もなき者/A COMPLETE UNKNOWN』に関しては、音楽のシーンを全て取り除けばかなり短くなるんですけどね(笑)。

ーー(笑)。

マンゴールド:それは冗談ですが、音楽のシーンでもドラマに入り込めるような撮り方にしました。私は他の映画監督と比べて、とても古いタイプだと自分でも思うんです。NetflixやAmazon、Appleとも仕事をしたことがありませんし、今のところ一緒に仕事をしたいとも思いません。なぜかと言うと、映画館で映画を観るという劇場体験が好きだから。それに、映画を劇場で公開することによって、さまざまな話題が生まれやすくなり、社会の一部になることができると思うんです。

ジェームズ・マンゴールド監督

ーーそれについては自分も同感です。日本では海外の映画がヒットしづらくなっていて、アニメーション映画や国内向けの商業映画が興行を支えているという現実があります。

マンゴールド:そうみたいですね。日本はかつて映画史においても非常に重要な国のひとつでした。ですが、ここ20年くらい、アニメーション映画やアート映画を除いて、その勢いを失っています。私はそれが非常に残念だと感じています。決して批判したいわけではありません。日本映画が好きだからこそ、かつての日本映画の勢いを取り戻してほしいと思っています。もちろんそれは日本だけの話ではありません。私たちもクオリティの高い映画を作り続けなければ、いつか文化的な価値を失ってしまう。映画をそうさせないためにも、私は映画を作り続けていきたいと思っています。

■公開情報
『名もなき者/A COMPLETE UNKNOWN』
全国公開中
出演:ティモシー・シャラメ、エドワード・ノートン、エル・ファニング、モニカ・バルバロ、ボイド・ホルブルック、ダン・フォグラー、ノーバート・レオ・バッツ、スクート・マクネイリー
監督:ジェームズ・マンゴールド
配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン
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