『おむすび』が映す“雇用環境の変化” 資格取得と朝ドラの関係を紐解く

 この変化は朝ドラにおける仕事の位置付けと相関している。専業主婦として家事を担うことが“普通”だった時代から、仕事を持つ職業婦人が脚光を浴びた時代へ。男女雇用機会均等法が施行され、OLがトレンディドラマの中心を担った。2000年代以降は自分らしさを求めて様々な業種に転身し、生き方が多様化した。終身雇用と年功序列が一般的だった頃は、職を転々とすることを忌避するきらいもあったが、いまやステップアップあるいは自己実現のための転職は標準装備ですらある。

 こうした状況下では、あえて資格への挑戦を声高に叫んだり、大げさに描かないことも、現代が舞台のドラマならば十分にありえる。『おむすび』の管理栄養士は、結が子育てしながら勉強するシーンがあったくらいで、受験の場面は割愛し、取得後に病院勤務するシーンから再開した。

 おもしろいのは、雇用環境の変化が男性にも波及していることだ。自立する女性の対比として不甲斐ないパートナーが必要であることを差し引いても、男性側のジョブチェンジに時代の変化を見て取ることは可能だ。『ちむどんどん』で暢子の夫・和彦(宮沢氷魚)は新聞記者を辞めて、フリーライターとなり沖縄へ移住。『おむすび』の翔也はケガでプロ野球選手の夢を断念し、会社員を経て理容師を目指す。試行錯誤の過程は、かつての朝ドラヒロインたちにも重なって見える。

 働くことを通じて主人公は社会と対峙し、自分自身を見つめる。朝ドラの資格取得は、私たちが生きる社会を映す鏡である。

■放送情報
連続テレビ小説『おむすび』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00〜8:15放送/毎週月曜〜金曜12:45〜13:00再放送
BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30〜7:45放送/毎週土曜8:15〜9:30再放送
BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30〜7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:橋本環奈、佐野勇斗、仲里依紗、麻生久美子、北村有起哉
語り:リリー・フランキー
主題歌:B'z「イルミネーション」
脚本:根本ノンジ
制作統括:宇佐川隆史、真鍋斎
プロデューサー:管原浩
写真提供=NHK

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