日本人は“外国人就労”にどう向き合うべきか 『東京サラダボウル』が描く実習制度の実態
別島のティエンに対する言動も立派なパワハラだ。それでもティエンが頑張ってこられたのは、同じケアスタッフの早川(黒崎煌代)という“友達”がいたから。早川は初めてティエンに会った時、「進さん(早川)はティエンと同じですね」と言われたという。年齢が近く、職場では一番下っ端で、家族と離れていることや友達がいないのも一緒。ただ、国籍だけが違い、ティエンは外国人であるがゆえに差別を受けている。それだけで早川は「自分の方がマシ」と心のどこかでティエンを見下していたのだ。その気持ちの現れ方が同情か、排除かで違うだけで、根本は別島と同じ。
だから、見下していた相手を脅威に感じた途端、同情は簡単に排除へと変わる。ティエンは3年間、地方の介護施設で技能実習生として働いた後に帰国。母国で結婚し、今度は特定技能制度を利用して日本へやってきた。
国際貢献を目的とした技能実習制度に対し、特定技能制度は日本の少子高齢化や人口減少に伴い、人材確保を目的に一定の専門性・技能を有する外国人を受け入れることを目的とする制度のこと。技能実習制度も廃止され、2027年には人材の確保と育成を目的とした育成就労制度に変わる予定だ。
つまり、私たちは外国人に「働かせてあげている」のではなく、「働いてもらっている」のだ。実際、真面目でケアスタッフとして高い能力を持つティエンも職場で重宝されていた。なおかつ、母国にはあたたかい家族や友達もいる。それに比べて自分には何もないという劣等感や居場所を奪われることへの恐怖から、早川はティエンのロッカーにタブレットを隠し、排除しようとしたのだった。
今回の問題はとても複雑だ。核家族化や人間関係の希薄化、それに伴う若者の孤立、貧富の差の拡大、介護職の給料の安さなど、色々な日本の問題が絡み合っていて、別島や早川が鬱屈とした感情を抱くのも理解できる。けれど、その憤りを外国人にぶつけたところで意味はない。状況は何も変わらないまま、負の感情だけが増幅し、自分を苦しめるだけだ。
「外国人を無理に愛せとは言わない。同じ社会に生きる者として、せめて受け止めなきゃ」
何もできないなんてことはない。技能実習生たちの実情を知っている今井だからこそ、その声をもとに、社会へ変革を促すことができる。有木野(松田龍平)が言う通り、彼女が通訳人になった意味はあるのだ。
これから日本の人口はますます減少し、国を維持するためにも外国人に頼るべきところが出てくる。だからといって、卑屈になる必要はない。人間には、上も下もないのだから。同じ職場で働く仲間として、同じ国、同じ社会で生きる者として、対等な関係を築いていけたらいい。
少なくとも、ティエンは進と対等な関係になろうとしていた。ティエンは漢字表記で「進」と書く。ティエンが「同じ」と言ったのはそういう意味だ。たったそれだけ。それだけだけど、知っている人が誰もいない異国で自分と共通点を持つ進に出会えたことが、ティエンは純粋に嬉しかったのではないだろうか。進がしたことは消えない。それでもいつか、2人が本当の意味で友達になれることを祈っている。
■放送情報
ドラマ10『東京サラダボウル』(全9回)
NHK総合にて、毎週火曜22:00〜22:45放送
NHK BSP4Kにて、毎週火曜18:15〜19:00放送
再放送:NHK総合にて、毎週木曜24:35〜25:20放送
出演:奈緒、松田龍平、中村蒼、武田玲奈、中川大輔、絃瀬聡一、ノムラフッソ、関口メンディー、朝井大智、張翰、許莉廷、喬湲媛、Nguyen Truong Khang、阿部進之介、平原テツ、イモトアヤコ、皆川猿時、三上博史
原作:黒丸『東京サラダボウルー国際捜査事件簿―』
脚本:金沢知樹
音楽:王舟
メインテーマ曲:Balming Tiger
メインビジュアル・デザイン:大島依提亜
メインビジュアル・スチール撮影:垂水佳菜
演出:津田温子(NHKエンタープライズ)、川井隼人、水元泰嗣
制作統括:家冨未央(NHKエンタープライズ)、磯智明(NHK)
プロデューサー:中川聡子
写真提供=NHK