『バック・イン・アクション』で俳優業復帰 キャメロン・ディアスから考える映画界の変化

 エミリーとマット(ジェイミー・フォックス)の夫婦が直面しているのは、家族への愛情が強く、成長した自分の子どもたちから“子ばなれ”することがなかなかできないという、普遍的な課題だ。とくに長女のアリス(マッケナ・ロバーツ)は、そんな親からの監視を嫌い、「二人とも、自分の人生を生きてよね!」と憤る。

 アリスのセリフが示す通り、自分の子どもに過度な干渉をしてしまう原因の一つには、親の自己実現を子どもに投影するケースがあることが知られている。スパイ活動に生きがいを感じていたエミリー夫婦は、知らず知らずに、その情熱を子どもの管理に使ってしまっていたのだろう。

 だが、劇中で二人が現役復帰し、悪漢たちと華麗に戦う姿を子どもたちに見せることで、事態は変化する。親が自身の得意な分野で輝く姿は、子どもに社会への希望を持たせるロールモデルとなる部分があるのだ。年齢は異なるものの、キャメロン・ディアス自身にも二人の子どもがいる。今回の映画復帰には、自身が映画界で輝く姿を見せたいという気持ちがあったのかもしれない。

 ファンとしては、何よりも、彼女の大きな笑顔が健在であり、画面に戻ったことが嬉しいことだろう。50歳を過ぎても、キャメロン・ディアスが彼女らしい活躍をしてくれることは、彼女の子どもたちのみならず、多くの人々に力を与えるはずである。

 だが、本作がキャメロン・ディアスの復帰作としての価値を持つ一方で、一本の「映画作品」としては、それ以上の意味は希薄だといえよう。なぜなら、アクションコメディ映画としての本作の出来は、全編で既視感を感じる凡庸なものだからである。例えば、『スキャンダル』(2019年)や『ベイビーガール』(2024年)のような、近年のニコール・キッドマンの鮮烈な作品群と比べると、その点では不満を感じざるを得ない。

 しかし、配信映画という観点から考えれば、話は変わってくる。本作は、わざわざ映画館に足を運ぶには、確かに不満をおぼえる内容なのかもしれない。だが自宅で気楽に、キャメロン・ディアスの復帰への興味という一点のために鑑賞するのならば、観客の期待には十分応えているからである。むしろ、そこを重視するのならば、本作くらい軽い内容である方が、彼女の健在ぶりを確認するうえで都合の良い部分もあるだろう。

 Netflixが本作の配給権を獲得した理由には、そこでの勝算があったからだということは、言うまでもない。だが、最近はスター俳優が活躍する、コメディ風味のスパイアクション映画が乱立し過ぎているのも事実。もう少し幅広いアイデアを出してほしいというのが、映画ファンとしての正直な気持ちだ。

 キャメロン・ディアスは、今後もキアヌ・リーブスとの共演作の企画が進行中であるなど、俳優活動を継続していくようだ。彼女が輝きを見せながら、さらに作品としても大きな意味を持つ映画を生み出してくれるのではという期待は、これから叶えられることになっていくのかもしれない。

■配信情報
Netflix映画『バック・イン・アクション』
Netflixにて世界独占配信中

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