『おむすび』が朝ドラだからこそ描けた震災 1月17日の黙祷に込められた作り手たちの思い
1月13日から17日にかけて放送された、NHK連続テレビ小説『おむすび』の第15週「これがうちらの生きる道」(第71~75話)では、2011年の3月11日に起きた東日本大震災が描かれた。
『おむすび』はギャルで栄養士の米田結(橋本環奈)が主人公の朝ドラだ。神戸出身の結は1995年1月17日に起きた阪神・淡路大震災を幼少期に経験しており、その時の被災経験が彼女の人格形成と家族の人間関係に大きな影響を与えたことが序盤(1~5週)で描かれた。阪神・淡路大震災と地下鉄サリン事件が起きた1995年は、後に失われた30年と言われる不況による日本の停滞が本格的に始まった年だ。平成という時代の空気が決定づけられたのは、この1995年(平成7年)と言っても過言ではなく、だからこそ『おむすび』では、1995年に結が経験した震災が、物語の起点となっていた。
また、『おむすび』の震災描写は、とても抑制的である。たとえば阪神・淡路大震災と聞いた時に筆者が真っ先に思い出すのは、新聞やテレビで繰り返し報道された倒壊した阪神高速道路の写真や映像だった。だからメディアを通して感じたショッキングな映像体験として、阪神・淡路大震災は記憶に残っている。
1995年は新聞やテレビの力が今よりも強く、イメージの伝達力が圧倒的だった。ジャーナリストの社会的使命感が過激な報道に走られたことは頭では理解できるのだが、そのショッキングな映像と大きな社会問題として語ろうとする語り口の裏側で、埋もれてしまった小さな現実がたくさんあったのではないかと、今は感じる。
そういった当時の恐怖感を煽るショッキングな映像を『おむすび』は意図的に映さないようにしている。地震の惨状はあくまで会話を通して視聴者に想像させるように配慮されており、だからこそ米田家の建物の一階が潰れている場面に直面した時のショックは、こちら側にも生々しく伝わってきた。
逆に避難所内部や炊き出しの様子、そして結が冷たいと感じたおむすびの味といった細かいディテールはとても丁寧に拾っており、その時に体験し感じたことが後々、結たちの人格形成に大きな影響を与えるという流れになっていた。
こういった描き方は、東日本大震災でも踏襲されていた。
第15週は、平成22年(2010年)4月から始まる。この回では結が妊娠したことがわかるのだが、結は重症妊娠悪阻を患い入院することなる。そこで管理栄養士の西条小百合(藤原紀香)と出会い、彼女の食事管理によって結は健康状態を取り戻し退院する。それから時が過ぎて結は娘・花を無事出産。実家の理髪店で神戸の商店街の人々に娘の花をお披露目するのだが、そこで揺れを感じラジオをつけると、東北で大きな地震があったというニュースが流れる。つまり震災は、結たちの日常に突然起こるものとして描かれていた。
そして第73話では、東日本大震災が描かれる。阪神・淡路大震災を経験した自分たちに何ができるかと神戸の商店街で暮らす人々は自問自答し、ある人は東北にボランティアとして向かい、ある人は東北の知り合いと連絡を取り、必要な物資を送ろうとする。
そんな中、結も「うちにできることないか?」と悩むのだが、姉の歩(仲里依紗)から「結が今やることは花をしっかり育てることだよ」と諭される。