『ウォレスとグルミット』約20年ぶり新作長編はファン歓喜の一作 “古さ”と“新しさ”が融合

 さらに『ペンギンに気をつけろ!』の存在感を高めていたのは、前述した悪役、フェザー・マッグロウの恐ろしさだ。ちょっと見ると、かわいい見た目のように感じられるが、細く伸びた首筋や無機質な目玉は、暗い画面でライティングされると、非常に不気味に感じられる。さらに、そんなポーカーフェイスなまま下宿先の主人であるウォレスに取り入り、頭脳犯罪を画策するのだから、恐ろしいことこの上ない。このイギリスならではの皮肉な演出が、シリーズを大人も楽しめる内容にしたのである。

 一部の子どもたちの心に恐怖を植え付けることとなったフェザー・マッグロウ。この絶対的悪役が、ついに本作で自分を“動物園送り”にした復讐を始めることとなる。マッグロウが目をつけたのは、ウォレスの新たな発明品である、庭仕事ロボットの「ノーボット」だ。ヨーロッパの妖精「ノーム」の姿に、AIを搭載した、ウォレスとしても最新鋭の発明だ。

 このAIロボたちがマッグロウにデジタルな方法で操られてしまうという構図は、ニック・パーク本人が常々言っているように、アニメーション制作における、アナログなアニメーションづくりとCG(コンピューター・グラフィックス)の関係性を暗示したものだろう。ニック・パークがアニメ制作を続けているなかで、ピクサーなどの3DCGアニメーションが台頭し、クレイ同様に実体感のある表現方法の確立に、ニック・パークは危機感をおぼえたのだという。

 そうなると立場的にはCG技術に対抗し、アナログの魅力のみにこだわる方法論を取りそうなものだが、『ウォレスとグルミット 野菜畑で大ピンチ!』(2005年)などの作品で、一部CG技術を使っていたり、本作にもCGの使用が確認できるように、ニック・パークはCGを部分的に活用することで、表現力の幅を広げ生き残る道を選ぶことにしたようだ。そんな自分の道筋を、本作はAIの脅威と和解というストーリーとして、今日的な要素のなかで表現していると考えられる。

 そして、『ペンギンに気をつけろ!』で伝説となったミニチュアの列車アクションを、技術が進歩した現在の表現力で、スケールアップするかたちで提出したことは、長年のファンを喜ばす要素ともなっている。このように、良い意味での“古さ”と“新しさ”を融合して進んでいこうという前向きなラストは、温和でお人好しなウォレスの性格にマッチしていて、安心させるものとなっている。

 とはいえ、『コララインとボタンの魔女 3D』(2009年)などを制作した「ライカ」や、『ファンタスティック Mr.FOX』(2009年)などのストップモーションアニメーションを撮りあげているウェス・アンダーソン、『PUI PUI モルカー』シリーズの見里朝希など、ニック・パークの切り拓いた、新時代のストップモーションアニメの道を歩むスタジオや作家の台頭、そして何より、質感の面でも進化してきた最新鋭のCGアニメーションの数々は、アードマン・アニメーションズの表現力の高さや題材の面白さを、唯一無二のものにとどめさせてはくれなかった。

 実際、本作の技術は『ペンギンに気をつけろ!』よりもはるかに上のはずなのに、当時のような衝撃をもたらしてはくれないことも確かなことだろう。むしろ、まだ素朴さを色濃く残していた『ペンギンに気をつけろ!』の方が、いま観ても、クレイアニメーションの領域を押し広げる瞬間や、圧倒的な熱意や野心を感じるという点で、新鮮な感動をおぼえるのである。

 だが、そんな歴史を経て成長していったアードマン・アニメーションズやニック・パークの歩んできた道のり自体は、やはり唯一無二のものである。そのクリエイティブの豊かさ、洗練され続けるクレイアニメの技術は、いまなお尊敬されるべきものであり、これからも多くのアニメーターの目標であり続けることだろう。

参照
https://moviewalker.jp/news/article/153312/

■配信情報
『ウォレスとグルミット 仕返しなんてコワくない!』
Netflixにて配信中
Courtesy of Netflix © 2024

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