『サユリ』はホラーが苦手な人にこそ観てほしい タフで優しいばあちゃんに学ぶ“生きる力”
押切蓮介原作・白石晃士監督による“最恐傑作”『サユリ』が、ついにDMM TVで配信開始となった。この映画は単なる心霊ホラーではない。むしろ、そうしたホラーを不得手にしている人にこそ観て欲しい作品でもある。なぜなら「死者より生者の方が強い」というシンプルだが力強い本作のメッセージは、あなたの今後の人生の糧になるはずだからである。『サユリ』とは理不尽な死に抗う者たちの記録であり、生きる力を賛美する物語なのだ。
物語は、二男一女の3人の子供を持つ神木家が、祖父母とともに新たな生活を始めるところからスタートする。中古ながら念願のマイホームを手に入れ、穏やかな日常が訪れる。元・太極拳の師範で今は認知症気味の祖母の世話に多少苦労しながらも、笑いの絶えない幸せな家庭を築いていた。
しかし、その幸せは長くは続かない。家に取り憑いた「何か」が家族に襲いかかり、次々と命を奪っていく。父、母、祖父、姉、そして弟までもが命を奪われ全てを失った長男・則雄(南出凌嘉)は途方に暮れるが、土壇場で祖母・春枝(根岸季衣)が覚醒。「復讐じゃ!」と雄叫びをあげる春枝とともに、則雄はこの家に棲む悪霊・サユリとの真っ向勝負を始める。
“ばあちゃん”こと春枝は、絶望する則雄に“命を濃くする”ことの大切さを説く。「よく食べ、よく寝て、よく生きる」「毎日走り、外気に触れ、心の臓を動かす」をモットーに、死者に対抗するべく則雄を鍛え上げる導師となるのだ。覚醒後のばあちゃんは「死への反抗」を体現するかのようにヒッピー的な装いになる。どう見ても重そうなタバコをパカパカと吸い、ロックを爆音でかけ、車で爆走する。しかもこのばあちゃんは暴力的で遵法意識も極めて低い。絶対に敵に回したくない存在だが、味方となればこれ以上頼もしい存在もいないだろう。誰よりも自由で、誰よりも強いのがこのばあちゃんである。
本作は後半から急展開を迎えるのだが、そこに至るまでのホラー描写はかなり怖い。正直、私も劇場で観ている時は「なぜこんな映画を観に来てしまったんだ」とひたすらに後悔した。そんな心霊ホラー苦手民にとっては怨敵といっても差し支えない悪霊・サユリだが、彼女のバックグラウンドには同情してしまうし、彼女こそ本作で最も不幸な存在であるのは間違いないだろう。しかしいかなる事情があろうとも、死者が生者の命を奪ってよいという道理はない。いま則雄に必要なのは復讐である。