キムラ緑子が『おむすび』に生む陽気なムード “震災の記憶”を体現する真摯なアプローチ

 放送中の朝ドラ『おむすび』(NHK総合)は、物語の舞台を福岡の糸島から兵庫の神戸に移し、ヒロイン・米田結(橋本環奈)は神戸栄養専門学校へ。新たなキャラクターたちが登場し、回を重ねるごとに盛り上がりを増している。

 そしてそれは“学校パート”だけでなく、米田家が日々を送る“さくら通り商店街パート”にもいえること。個性的な面々によって、にぎやかな日常が紡がれている。ここではそのうちのひとりである佐久間美佐江に注目したい。演じているのはキムラ緑子である。

 この佐久間美佐江とは、さくら通り商店街にて夫婦でパン屋を営む人物だ。明るく陽気な性格の持ち主で、米田家とは古くから親交があり、この地に根を張って生きている。つまり、阪神・淡路大震災を経験している。結たち米田家が糸島に移住してからもずっと、仲間たちとともにこの商店街を守ってきたひとりなのだ。人々が震災で負った傷が完全に癒えることはないのだろう。被災した、という背景を持ちながら、多くの者が前を向いて生きている。美佐江はそんな商店街の人々の元気印である。

 本作の公式ガイド『連続テレビ小説 おむすび Part1』(NHK出版)にてキムラは美佐江について、「明るく元気で、人を幸せにしようと行動する女性です」と述べ、「美佐江は阪神・淡路大震災で被災していますが、演じながら震災という壮絶な体験をもつ彼女の強さと優しさを感じています」と続けている。やはり演じる本人も美佐江のこのキャラクターにはかなり自覚的なようだ。

 現在の美佐江はたしかに明るい。けれども彼女には、あの壮絶な過去がある。いまの彼女を見ていると、そういったものとは無縁のように思えるが、間違いなく震災はあった。実際、同ガイドの中でキムラは「被災した体験を演じることの難しさを痛感しています」としたうえで、「例えば、避難所では食べ物も水もなく、何日も着替えることさえできないというシーン。私は被災した経験がないので、リアルな感覚を表現することは無理なんです。撮影する時間はほんの一瞬です。もう、ずっとセットに寝泊まりして撮影できたらと、もどかしさを感じましたね。無理だとしても、その状況を深く想像して演じることが大事なのだと思います」と述べている。

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