こんなに“怖いガンダム”はない! Netflix『復讐のレクイエム』はファンが観たい一作に

 飛び交う銃弾を浴びて、兵士が血しぶきをあげる。巨大なマシンガンが火を噴いて、戦車が炎に包まれる。ここは血と硝煙の匂いで満ちた戦場。無骨な機動兵器が支配する街。しかし、夜の闇の中から“白いヤツ”が現れる。凶悪な威力を誇るビーム兵器を携えて……。

 Netflix『機動戦士ガンダム 復讐のレクイエム』は、これまでの『ガンダム』シリーズの世界を戦争映画に落とし込んだような作品だ。一年戦争の終盤、ヨーロッパ戦線の片隅であるルーマニアを舞台に、ジオン軍の兵たちの目線で連邦軍が投入した新兵器・ガンダムとの戦いを描く。

 主にゲーム制作に用いられるツール「Unreal Engine 5」で作り上げられたフォトリアルな3DCGによる戦闘シーンはいずれも迫力十分(共同制作のSAFEHOUSEは、NHK大河ドラマ『光る君へ』でも同ツールを用いて背景制作を行っている)。人間の視点から見るモビルスーツの巨大さと怖さが全編にわたって表現されていた。『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』にも通じる部分である。

 特に怖いのがガンダムだ(登場するのはガンダムEXという機体)。アニメでは主役機だったが、ジオンから見れば恐るべき敵でしかない。放たれるビームはザクの装甲を一撃で貫通し、ビームサーベルはザクの手足を容赦なくスパスパと斬り落とす。その上、こちらからの弾丸はあっさり跳ね返すのだからタチが悪い。対戦艦、対戦車の戦いでは無双していたザクでも歯が立たないガンダムのゲームチェンジャーぶりがいかんなく描かれる。彌富健一プロデューサーは「怖いガンダム」をテーマにしていたと明かしているが、その狙いは十分に成功している。

 『復讐のレクエイム』は『ガンダム』のミリタリー要素をクローズアップし、戦争アクションに全振りしたような作品だと言えるだろう。もともと『機動戦士ガンダム』はSFであるとともに、ミリタリー要素の強いアニメ作品だった。従来のロボットアニメでは珍しかった量産機、補給などの概念が導入され、戦車や輸送機など現実感のある兵器や装備が数多く登場していた。

 ドイツ人のエラスマス・ブロスダウ監督は、世界観を参考にした作品としてブラッド・ピット主演の戦争映画『フューリー』を挙げている。大戦末期のヨーロッパ戦線が舞台、歴戦の猛者が集まった一つの部隊の目線で描かれる物語など、たしかに『復讐のレクイエム』と似通った部分がいくつもあった(ここでの「大戦」とは第二次世界大戦のこと)。『フューリー』における戦車が、本作ではザクに置き換わっていると考えればいい。

 一方、『復讐のレクイエム』からオミットされているものもいくつかある。たとえば、『ガンダム』シリーズで描かれていた政治に関することは登場しない。ジオンと連邦双方の軍部や政治家たちの思惑は描かれず、あくまで末端の兵士たちがのたうちまわる戦場が中心に描かれている。恋愛要素もオミットされていた。多くのスタッフが本作のリファレンスとして挙げる『機動戦士ガンダム 第08MS小隊』は、主人公と敵方の女性との恋愛が物語の中心に据えられていたが、本作ではそのような要素は排されている。ビームサーベルで沸かした風呂に男女で一緒に入ることもない。

 富野由悠季監督が『ガンダム』で描いた人類の革新の形であるニュータイプも、本作では味付け程度に過ぎない。また、富野監督が頻繁に描いていた、独善的だったり、ヒステリックだったり、みっともなかったりする人物も出てこない。誰かが誰かのエゴに振り回されることもなければ、ドロドロとした愛憎劇も登場しない。戦争という極限状態の中で人と人とがわかり合えない虚しさ、せつなさが描かれてはいるものの、鑑賞後の味わいがややあっさりしているのはそのためだろう。

 『復讐のレクイエム』は、1話30分足らずで全6話というシリーズものとしては短めの尺を、スリリングな戦争アクションに全部突っ込んでいる。これが非常にいい塩梅で、観やすさにつながっているのだ。

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