小林虎之介は天性の愛され俳優 “痛みの伝わる演技”が『宙わたる教室』の骨格を担う

 俳優の世界は、毎年、新星が次々と現れる。今年最も存在感を高めた若手俳優の一人が、小林虎之介だろう。

 2023年秋に放送された『下剋上球児』(TBS系)で赤髪の問題児・日沖壮磨役を演じ、注目度を上げると、今年に入って一気に出演作ラッシュ。『PICU 小児集中治療室 スペシャル 2024』(フジテレビ系)でプライドの高い研修医役に扮し、役の幅を広げ、『花咲舞が黙ってない』(日本テレビ系)、『ダブルチート 偽りの警官 Season1』(テレビ東京系)にゲスト出演。『約束 〜16年目の真実〜』(読売テレビ・日本テレビ系)にも後半から出演した。

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 そして、『ひだまりが聴こえる』(テレビ東京系)で中沢元紀と共に主演を務め、ファン層をさらに拡大。この秋は、『宙わたる教室』(NHK総合)で読み書きに困難を抱えるディスレクシアの生徒・柳田岳人役を演じ、高い評価を得ている。

 これからのドラマ・映画を語る上で絶対にマークしておくべき逸材の魅力を、ここで分析したい。

武器は外側から役を作り込む構築力

 「今期ナンバーワン」の呼び声高い『宙わたる教室』。作品の生む静かな熱の虜となっている視聴者も多いが、その立役者の一人が、初回で観る者の心を激しく揺さぶった小林虎之介だ。

 見せ場は、担任の藤竹(窪田正孝)からディスレクシアの可能性があると指摘されるシーン。今まで字が読めないことでさんざんバカにされてきた岳人にとって、それが学習障害に起因するものだと判明しても、悔しさは晴れない。顔を真っ赤にして怒りをぶつけ、「なくしたものは取り戻せねえ」と吐き捨てる。小林の“痛みの伝わる演技”に、画面の向こうの傍観者まで身の切れるような思いを味わった。このドラマは、生きづらさを抱える人たちを決して置き去りにしない。作品の思想そのものを語るような演技だった。

 『宙わたる教室』は、「前例がない」ことを嫌う現代社会に対し、実験を通じて無限の可能性に挑む喜びを証明するドラマだ。そんなメインストーリーと並走するように描かれているのが、科学部の生徒たちの成長――とりわけ岳人の成長記録である。

 学びたいという気持ちを持ちながらも、読み書きがほとんどできないことから、自分で自分の可能性をあきらめていた岳人が、藤竹と出会い、学ぶ楽しさを知り、本来備えていた知性を急激に伸ばしていく。実験に取り組む横顔は真剣そのもの。仮説通りの結果が出ると、子どものように目を輝かせる。第6話では、実験場所を借りるために、コンピューター部の丹羽(南出凌嘉)に頭を下げた。きっと今までの岳人なら人に頭を下げるなんて好まなかったはずだ。でも、本当にやりたいことのためなら、いくらだって頭を下げられる。それだけのものに岳人が出会えたことに、思わず目頭が熱くなった。

 これだけ岳人の成長に打たれるのも、くすぶっていた頃の岳人が鮮烈に焼きつけられているからに他ならない。抜群のインパクトを放っていたのは、岳人の初登場シーン。夜の歌舞伎町を歩く岳人が、通行人とぶつかり、睨みつける。振り向きざまに見せる鋭い眼光と、舌打ち。そのぎらりと光る目には、世の中への怒りが滾っている。常に導火線に火がついている男。ファーストシーンで柳田岳人というキャラクターをしっかり印象づけた小林の人物構築力は大いに評価されるべきだろう。

 そして、小林虎之介の俳優としての魅力もこの構築力にある。特に、小林は外側からの作り込みに長けた俳優だ。『下剋上球児』のときは捕手という役柄に説得力をもたらすべく、4kgの増量をして臨んだ。『PICU 小児集中治療室』では歩き方から大病院の御曹司という役柄を研究した。

 散歩が好きな小林にとって歩き方は役を表現する重要なピースだ。『ひだまりが聴こえる』では腕を大きくぶんぶんと振るように歩き、演じた佐川太一の“小学生感”をチャーミングに演出した。一方、『宙わたる教室』の岳人は、気だるそうに重心が下がっている。歩くときはつま先を外に向け、やや大股。撮影前に歌舞伎町を自転車で周回したと話していたが、足を放るような歩き方が、歌舞伎町を生活の拠点としている岳人の雰囲気にマッチしている。

 俳優生活4年目。まだまだ演技に荒削りな部分はある。それは本人もわかっているだろう。だからこそ、役になりきるための器をちゃんと準備する。それは俳優としての誠意であり、鋭い身体感覚が小林の大きな武器だ。

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