アメリカ大統領選で映画館は寂しい週末 ハリウッドの深刻な分断、映画界にどう影響する?
11月5日にアメリカ大統領選挙が実施され、ハリウッドはひっそりとした週末を迎えた。2年前には『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』(2022年)が、昨年は『マーベルズ』(2023年)が公開された週末だったが、今年は話題作の公開はなし。北米週末ランキングの第1位は『ヴェノム:ザ・ラストダンス』が変わらずキープした。
大手スタジオが新作の公開を控えたのは、もちろん大統領選の影響を懸念したためだ。共和党のドナルド・トランプと民主党のカマラ・ハリス、どちらが勝利するにせよ人々の注目は選挙結果に集まると見られたのがひとつ。大統領選の影響でTVスポットの価格が高騰し、広報・宣伝費が膨れ上がりかねないのがひとつ。そして、もしもトランプが敗れた場合、2021年1月の連邦議会議事堂襲撃事件のようなパニックが起こりかねないと考えられたのがひとつだ。
今回の大統領選で、ハリウッドのセレブリティはこぞってハリス支持を表明していた。とりわけ、『アベンジャーズ』シリーズでおなじみロバート・ダウニー・Jr.やクリス・エヴァンス、スカーレット・ヨハンソン、マーク・ラファロが、ハリス支持のために“アッセンブル”した映像は大きな話題を呼んだのである。
ハリソン・フォードやロバート・デ・ニーロ、アーノルド・シュワルツェネッガー、テイラー・スウィフト、レディー・ガガ、ビリー・アイリッシュといった顔ぶれも、同じくハリス支持を表明。しかし、これらは少なからず民意と乖離しており、反発さえ呼んだ可能性があると考えられている。結果はトランプの大勝利(と言ってさしつかえないだろう)に終わったからだ。
こうしたなかで稀有だったのは、『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』シリーズなどのクリス・プラットだ。選挙の数日前にエッセイを発表し、「両陣営の目からこの選挙の意味を理解しようと努めている」「敗北に動揺しすぎたり、勝利に耽溺しすぎたりすると、“チーム”への忠誠心で、自分たちが同じ国の人間であることを見失いかねない」「この国には助けを求める人々がいる、どちらが勝ってもそのことを忘れてはいけない」と綴った。きわめてまっとうなメッセージに思えるが、ハリス支持を表明しなかったため、SNSでは「どうせトランプ支持なんだろ」などと揶揄されている。
ともあれ、これほどハリウッド内部の深刻な分断があらわになった以上、映画業界への視線にも変化は避けられない。『アベンジャーズ』俳優によるハリス支持映像は、もちろんマーベル・スタジオの公認ではなく俳優たちが自発的に公開したものだが、観客やジャーナリストは必ずしもそのようには受け止めないからだ。事実として、マーベル・シネマティック・ユニバースの近作は、少なからず“トランプ的なもの”を批判してきたのだし、2025年2月公開の最新作『キャプテン・アメリカ:ブレイブ・ニュー・ワールド』にもそうした側面があると推測されている。
新キャプテン・アメリカ役のアンソニー・マッキーが、彼自身がどちらを支持するかにかかわらず、一連のキャンペーンに乗らなかったことはある意味で賢明だっただろう。トランプが勝利した今、“それ以前”に作られた映画は見え方が変わってしまうし、出演者とスタッフに注がれる視線も必然的に変わってしまう。そして、そのことは興行にも影響を与えるはずだ(逆に言えば、同作で白人の大統領役を演じているハリソン・フォードがハリス支持を表明したのはうまい立ち回りだった)。