『海に眠るダイヤモンド』宮本信子=土屋太鳳が濃厚? 次々に入れ替わる恋の矢印

 戦争、災害、事故など、誰にも避けられなかった大切な人の死を前に、亡くなった人を偲ぶのと同時に、残された側の苦しさにも胸が詰まる。いっそ消えて思われる側になりたかったというのは、綺麗事では済まされない現実を生きる人びとの本音だと思うのだ。大事な姉を失っただけでなく、大好きだった母まで壊れてしまった。それでも生きていかなければならない百合子が、思わずつぶやいた「消えたい」の言葉。だが、それを聞いた鉄平は百合子のことが「好きだった」と返す。やさぐれていたという百合子が、どれだけ自分にとっては魅力的だったか。人はそこにいて、誰かと関わるだけで、相手の心を動かすことができる。そうして、お互いの人生を複雑に色づけているのだ。つい、広い世界を前にすると自分などいてもいなくても関係なく動いていくものだと思ってしまうが、閉じられた空間の端島だとわかりやすく見えてくる。「百合子が思ってるよりも、みんなに大切にされてる。神様にも」と声をかけた鉄平。

 そんな2人の会話からは、いづみが回想した「あれは何角関係だったんだろう」という彼らの恋模様も垣間見ることもできた。鉄平が大学生時代、百合子に想いを寄せていたのは百合子本人も気づくほどのバレバレ具合だった。そして「だから賢将(清水尋也)を選んだの。私のことを好きな人となんて、いいかげんな気持ちで付き合えないもの」という意味深な発言も飛び出す。真剣な想いがあるからこそ付き合えない。それは「本当に好きな子とは手も繋げない」という賢将と似た者同士な匂いがする言葉だった。

 スクエアダンスで朝子(杉咲花)と手を繋ぐことに躊躇したところから、賢将の本命は朝子なのだろう。台風のときに朝子の店に駆けつけたときもコッペパンが好きだという話をしながら、「(朝子のことが)好きだ」という意味を含んでいるようにも聞こえてならなかった。しかし、口では「オープンな関係」とは言いながら、仮にも恋人である賢将がピュアな感情を向ける朝子に、百合子が面白くないと感じるのは複雑な女心といったところか。しかも、朝子の想い人は、自分に気があった鉄平ということもあり、ちょっぴり意地悪をしてきたのだろう。

 だが今、鉄平が夢中になっているのはリナ(池田エライザ)だ。まさにスクエアダンスのように次々に入れ替わる恋の矢印。選ばなかったからといって、そこに何もなかったということとイコールではない。大事な想いこそ語られないこともある。そんな心の奥底に秘めた誰にも奪うことのできない気持ちを想像しながら、いづみと百合子が水を飲む姿がシンクロする映像に、彼女たちが同一人物なのではという考えも浮かんだ。端島では「どうして家出する場所がないのかしら」と嘆いていた百合子。思えば、いづみが玲央と出会ったのは、家出の最中だった。大事だからこそ、向き合うのが怖い。つい逃げたくなってしまう。もし百合子がいづみなのだとしたら、ある意味で鉄平に対する想いからの家出をし続けてきたのかもしれない……? と、まだまだ解けない謎を追いかける喜びを噛み締めながら、端島のあの日々と現代の日本に想いを馳せる日曜の夜を楽しみたい。

■放送情報
日曜劇場『海に眠るダイヤモンド』
TBS系にて、毎週日曜21:00〜21:54放送
出演:神木隆之介、斎藤工、杉咲花、池田エライザ、清水尋也、中嶋朋子、山本未來、さだまさし、國村隼、土屋太鳳、沢村一樹、宮本信子、尾美としのり、美保純、酒向芳、宮崎吐夢、内藤秀一郎、西垣匠、豆原一成(JO1)、片岡凜
脚本:野木亜紀子
演出:塚原あゆ子、福田亮介、林啓史、府川亮介
プロデュース :新井順子、松本明子
スーパーバイザー:那須田淳、岡崎吉弘
音楽:佐藤直紀
編成:中井芳彦、後藤大希
製作:TBSスパークル、TBS
制作協力:NBC長崎放送
©TBSスパークル/TBS
公式サイト:https://www.tbs.co.jp/umininemuru_diamond_tbs/
公式X(旧Twitter):@umininemuru_tbs
公式Instagram:umininemuru_tbs
公式TikTok:@umininemuru_tbs

関連記事