【追悼】西田敏行さんは“人間の複雑さ”を表現し続けた あまりに大きな存在感の喪失

 もうひとりが宮藤官九郎。西田さんは宮藤脚本のドラマ3作で長瀬智也と“親子”(芸の上での関係も含む)を演じている。『タイガー&ドラゴン』(TBS系/2005年)での落語家・林屋亭どん兵衛、『うぬぼれ刑事』(TBS系/2010年)元刑事の葉造、そして最後が『俺の家の話』(TBS系/2021年)で担った要介護の人間国宝・観山寿三郎だ。

 この作品のO.A.前に表に出る仕事からは身を退くと表明し、プロレスラーとしての身体を作りこんで撮影に臨んだ長瀬智也も凄まじかったが、病気を経て以前のように自由に動けなくなりながらも、その衰えた身体を含めすべてをカメラの前に晒した西田敏行さんの演技はドラマ史に残るものだった。

西田敏行から放たれる“人間の業” 『俺の家の話』観山寿三郎役は紛れもない集大成に

「ハナハナハナハナ秘すれば花」「ホテルとオフィスのディスタンス」……ヤバい、“潤 沢”の新曲「秘すれば花」のメロディが頭から離れ…

 妻以外の女性との間にできた子どもを弟子の実子として育てさせる過去を持ち、要介護になってもわがまま放題で周囲に迷惑をかけまくる人間国宝の能楽師。父親としては0点だし全然正しい老人ではないのに西田敏行さんが演じるとチャーミングさ全開でどうしても憎めない。

 さらに3作目となった長瀬智也との“親子”ぶりは本当にリアルで、ふたりの間には「喜怒哀楽」「憎悪と愛情」と親子の間に流れるすべての感情があった。それはまるで表舞台からは退くと決めた“息子”に“父”西田さんが身を削りながら渾身のギフトを手渡しているようだった。

 一視聴者、または観客として、西田敏行という俳優は「人間とはどれだけ複雑な生き物か」をつねに役を通して見せてくれた存在だったと思う。コミカルな芝居の奥にチラっと見える恐ろしさや、不完全な人物が宿す温かみや魅力……それらをここまで体現できる俳優が他にいるだろうか。

 あまりにその存在が大きすぎてどうまとめていいのか正直わからない。今夜は『俺の家の話』第6回で西田さん演じる寿三郎が電飾と花に飾られた車椅子に乗ってステージで華麗に歌う「マイ・ウェイ」のシーンをリピートしようと思う。すべては心の決めたままに……。

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