『あのクズ』奈緒が全身を使って喜怒哀楽を表現 玉森裕太がピンチを救う“救世主”に
ほこ美(奈緒)のコロコロ変わる豊かな表情のようにテンポよく転がるストーリーが小気味よい『あのクズを殴ってやりたいんだ』(TBS系)。第1話では、主人公のほこ美の中で“出会えてよかった運命の人かもしれない存在”から“殴ってやりたいクズ”へとあまりに対極の振れ幅を見せた葛谷海里(玉森裕太)。それが第2話では、辛い辛いボクシングジムの本入会試験に向き合う唯一にして強烈なモチベーションとなり、なんだかんだ自分のピンチを救ってくれる救世主にもなる。
やはり海里は過去にボクシングをやっていた。さらにほこ美が通う羽根木ボクシングジム所属だったようだ。悟(倉悠貴)が撫(玉井詩織)に“海里は人を殺したことがある”と打ち明けていたが、きっと毎月まとまった金額を送金している「ヒラヤマミチエ」という名義が関係しているのだろう。どうやら海里は試合中に対戦相手を負傷させ、それが致命傷になったようだ。そして海里がゲーセンでふとその面影を思い出したボクサー仲間のような青年(大東駿介)こそが、その相手だったりするのだろうか。
その事故を機に海里はボクシングジムを辞めただけでなく、実の息子かのようにかわいがってくれた会長・成(渡部篤郎)の元を急に去り、居場所も隠していたようだ。おそらく人生を懸けて取り組んでいたに違いないボクシングで、自身の拳で人の命を奪ってしまったことで海里は誰より自分のことが信用できなくなったのだろう。そんな自分にははなから普通の恋愛なんて無理だと諦めているようにも見え、海里の気持ちを繋ぎ止めるために、ブランド品などを差し出すライトな付き合いの異性との繋がりの方が気楽に思えるのだろう。
だからこそ、ほこ美とたまたま一緒に仕事をすることになった地域の活性化プロジェクトで、自分の撮った写真を「普通の人の普通の生活が滲み出ていて、この写真見てると幸せな気持ちになる」と言ってくれたほこ美の言葉に救われハッとさせられたのではないだろうか。人を殺した自分にもそんな写真が撮れるということと、自分が実は心底望んでいるのは欲しがることさえ憚られると自身に禁じてきた“普通”の日々だったことを、まざまざと突きつけられたからではないだろうか。海里がほこ美に対してこぼした「羨ましいですよ、あんなにバカになれて。素直に笑ったり怒ったり泣いたり」という言葉に嘘はなかった。
ほこ美が言う「普通が一番幸せ」という言葉も、生きてこそ堪能できることだ。対戦相手に当たり前に続いていくはずだった“普通”の未来を自身が奪ってしまったことへの罪悪感と、その“普通”を希求している海里の複雑な内面や二面性を、玉森裕太は繊細に見せてくれる。