染谷将太のカラオケシーンに嗚咽 『若き見知らぬ者たち』が“見知らぬ者”にしなかったもの

『若き見知らぬ者たち』カラオケシーンに嗚咽

 リアルサウンド映画部の編集スタッフが週替りでお届けする「週末映画館でこれ観よう!」。毎週末にオススメ映画・特集上映をご紹介するコーナーですが、今回は先週末の3連休に間に合わせることができず……。すでに公開されておりますが、クライマックスシリーズ石井が10月11日に公開された作品『若き見知らぬ者たち』をプッシュします。

『若き見知らぬ者たち』

 2020年に公開された映画『佐々木、イン、マイマイン』は、内山拓也という日本映画界に誕生した新たな才能に惚れ込んだ一作でした。数年経った今でも、自分の心の中にいる佐々木(細川岳)に励まされる瞬間があります。

 そんな内山監督の商業長編デビュー作となるのが『若き見知らぬ者たち』。フランス・韓国・香港・日本の共同制作に加えて、海外での配給も公開前から決定しており、文字通り世界に向けて発信される一作です。『佐々木、イン、マイマイン』が放っていた「俺はこれを描きたいんだ!」という内山監督の思いはそのままに、あるいはそれ以上に、本作も冒頭から最後まで魂の叫びが込められています。

 本作の主人公は、亡くなった父(豊原功補)の借金を返済するために、昼は工事現場、夜はカラオケバーで働き、さらに難病を患う母・麻美(霧島れいか)の介護まで行っている風間彩人(磯村勇斗)。彼に訪れる結末を含めて、世の中の理不尽をすべて背負ったような人物です。

 率直に言って、もう観ていて辛い……。総合格闘技の選手として奮闘する弟・壮平(福山翔大)や、恋人・日向(岸井ゆきの)、高校時代からの親友・大和(染谷将太)など、彩人を支えてくれる存在はいて、決して孤独というわけではありません。彩人にどんなに理不尽な不幸が訪れても、どうにか日々を生きているのは、彼らの存在があるからだと分かります。だからこそ、この現実から逃げられない彩人の苦しさがより際立ちます。

 彩人は高校時代はサッカー部のキャプテン。将来を期待されていたプレイヤーだったようで、大和がずっと信頼していることからも、周囲の気持ちを推し量る能力に長けたキャプテンだったことが伝わります。実際に見知らぬ顔をして通り過ぎればよかったのに、警察から理不尽な要求をされている若者を放っておくことができない。結果、それがさらなる悲劇につながっていく。

 「支えてくれる人がいるならもっと頼ればいいじゃん」「行政の力を借りればいいじゃん」と傍から見れば思うかもしれません。実際、その通りではあり、彩人が一度は試みたものの何らかの理由で断られた、恋人の日向が助けようとしたがうまくいかなかったなど、その過程を描く必要もあったようにも感じます。でも、本当に追い込まれた状況に陥ったことがある人は、理不尽な現実を受け入れることしかできないあの感じ、納得できるものがあるのではないでしょうか。助けを求めなくてはいけないときほど、「助けて」の一言が言えなくなってしまう。ただ、それによって、社会からは「見知らぬ者」にされてしまう。

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