「マルチ商法」はなぜダメなのか? 『西湖畔(せいこはん)に生きる』が描いた3つの理由

『西湖畔に生きる』が描く”マルチ商法の闇”

 リアルサウンド映画部の編集スタッフが週替りでお届けする「週末映画館でこれ観よう!」。毎週末にオススメ映画・特集上映をご紹介。今週は、アジア一人旅を夢見る佐藤が『西湖畔(せいこはん)に生きる』をプッシュします。

『西湖畔(せいこはん)に生きる』

 このタイトルと気持ちよく目を閉じる主人公が捉えられたポスタービジュアルからは想像のできほど闇深い作品。「虫」「川」「木」そして、「茶畑」といった山を形作る生き物がパーツとして、ひとつずつ丁寧に描写されており、自然と人間の描き出しにこだわりが詰まっている。「寄り」で捉えたときに感じる自然の雄大さと同時に、山全体を「引き」で映した際に抱く“不穏さ”の空気感が漂っている。

 観客を作品の核心へと引き込んでいく、“山の視点で見つめる天上と地獄”というテーマ。山そのものが無言の観察者として存在し、人間の葛藤や欲望を見つめ続ける。人間が自然の中で抱える苦悩や対立、そして逃れられない運命が、まるで山に呑み込まれていくかのように展開されていく。

 ここまで聞くと、「山」がたくさん出てくる“みどりみどり”した作品なのかと思われるかもしれないが、全くそんなことはない。むしろ登場人物は超現代的な設定で、そのギャップがとても面白い。本作の舞台は、中国の杭州。最高峰の中国茶・龍井ロンジン茶の生産地で知られる西湖のほとりに暮らす、母・タイホア(苔花)と息子・ムーリエン(目蓮)を軸にした物語は、茶摘みでひとり息子を育てていた母が「マルチ商法」の地獄に堕ちたことをきっかけに一変していく。ここで出てくる「マルチ商法」は、普通の足裏シートをあの手この手でいろんな人に売り捌く、というもの。承認欲求にもがき苦しんでいた母は、足裏シートを売る自分に存在理由を見つけ、自信を身につけていく。

 このストーリーは、仏教故事にインスパイアされているらしい。釈迦の十大弟子のひとりである目連が地獄に堕ちた母親を救う仏教故事『目連救母』をヒントに、グー・シャオガン監督と共同脚本のグオ・シュアンが現代の物語として書き上げたという。しかも、2024年4月に公開された本国では、第1位『君たちはどう生きるか』、第2位『ゴジラ×コング 新たなる帝国』に次ぐ第3位の興行収入(※2024年4月時点)を記録していることからも、今年の必見作であるのは間違いないだろう。

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