『九龍ジェネリックロマンス』実写化の鍵は“なつかしさ”の表現 アニメとの違いから考える

 『週刊ヤングジャンプ』(集英社)で連載中の、眉月じゅんのマンガ『九龍ジェネリックロマンス』の実写映画化とテレビアニメ化が同時に発表された。

 累計発行部数100万部を超える人気マンガなので、実写化もアニメ化も珍しいことではないが、その2つが同時に発表され、特報のティザー映像もアニメと実写をミックスさせたケースは珍しい。この動きは今後もあるのかどうか、そして、2つの異なる映像作品で何を満たせば良い作品となるか、考えてみたい。

雑然とした、ノスタルジー漂う街で描かれる恋愛模様

 『九龍ジェネリックロマンス』は、九龍城砦の不動産会社で働く鯨井令子を主人公とした、ノスタルジックな雰囲気が特徴のSFラブストーリーだ。ジェネリック地球(テラ)と呼ばれるスペースコロニーのようなものが宇宙空間に建設される時代だが、鯨井の住む九龍は、雑然としており、古いものに溢れている。彼女は同僚の男性、工藤発に恋をしている。ある日、工藤にかつて婚約者がいて、しかもその女性が自分と瓜二つであることを知った鯨井は、自らの過去の記憶がないことに気がつく。ミステリー要素とSFのテイストを加味した大人の恋愛模様が、懐かしい香りを漂わせた街で展開していく。

 九龍とは、香港にかつてあったスラム街で、「東洋の魔窟」と呼ばれ犯罪の温床ともなっていたが、デタラメに建造されたかのようなビルが立ち並び、所せましと看板が立ち並ぶそのカオスな光景は、ある種のエキゾチックな魅力を称えていた。現代の日本で例えるなら、歌舞伎町近くにあるゴールデン街が放つ魅力に近いと言えるだろうか。狭い路地に店が所せましと並び、喧噪の溢れ、どこか郷愁を覚えるあのような存在。80年代から90年代にかけて、こうした雑然とした東洋の街は、『ブレードランナー』や『攻殻機動隊』といったハイパーテクノロジーを描くSF作品に影響を与えたが、『九龍ジェネリックロマンス』もそれらの作品に連なる作品と言えなくもない。だが、本作においては、SF要素よりも、大人の男女の機微を細かく描く恋愛物語が大きな柱となっている。

実写化とアニメ化同時発表

 そんなノスタルジーな魅力を持った本作の実写映画化とテレビアニメ化が同時に発表されたのはどんな意味があるだろうか。

 これまでも、実写映画とテレビアニメ両方が制作されたマンガは数多くあるが、それぞれが個別に製作委員会を組成し、個別に発表・制作することが多かった。本作のように、同時に発表し、さらには特報に実写とアニメのフッテージを両方使う作品は珍しい。

 だが、最近は出版社の企画コンペにおいて、実写化とアニメ化両方の獲得を条件にすることも増えてきていると、アニメ製作関係者に最近聞いた。出版社としては、自社の持つIPの最大化を図るために、アニメファンと実写映画のファン両方に訴求することは当然考えるだろう。

 その際、注意せねばならないことは、原作イメージとの乖離だろう。とりわけ、実写化には様々な意見が飛び交う。だが、アニメの場合は、近年は概ね原作通りに制作されるケースが多く、原作ファンにも信頼される傾向が強い。ならば、アニメも作れる会社に実写の企画も同時にハンドリングしてもらう方が、イメージに近い作品を作りやすいと考えているのかもしれない。

 実写映画の配給は、バンダイナムコフィルムワークスが担当する。同社はサンライズなどを傘下に持ち、アニメのイメージが強いかもしれないが、バンダイビジュアル時代から実写映画の制作実績も豊富で、今年も『夜明けのすべて』などの秀作を配給している。実写の企画もアニメの企画も高いレベルでこなせる会社だと言えるだろう。

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