岡田麿里、監督業を経て見つけた“脚本との向き合い方” 「最もリアルに近づいた」

 20歳という年齢は、人生の大きな岐路に立つ時期だ。大学生活に没頭する者もいれば、社会人としての第一歩を踏み出す者もいる。この先の未来への希望に満ちながらも、同時に大きな不安も抱える多感な時期。そんな20歳の青年たちの青春を鮮やかに描き出す新作映画『ふれる。』が誕生した。

 本作は、『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』『心が叫びたがってるんだ。』『空の青さを知る人よ』の秩父三部作を手がけた、監督・長井龍雪、脚本・岡田麿里、キャラクターデザイン&総作画監督・田中将賀の3人が贈る、オリジナル長編アニメーション映画だ。

 同じ島で育った幼馴染の秋、諒、優太。20歳になった3人は東京・高田馬場で共同生活を始める。異なる道を歩み始めた彼らだが、島から連れてきた不思議な生き物「ふれる」の力で結び付けられていた。しかし、「ふれる」には隠されたもう一つの力があり、3人の友情は大きく揺れ動いていく。

 岡田は本作について「今まで3人でやってきた作品の中で最もリアルに近づいた」と語っているが、ファンタジー要素もある本作の何が一体そうさせているのか。青春の輝きと鏡合わせにある苦悩を描き続けてきた岡田が、『ふれる。』に込めた思いとは。

長井監督への“千本ノック”で磨き続けたアイデア

――完成した映像をご覧になった時の印象を聞かせてください。

岡田麿里(以下、岡田):脚本作業は2、3年前くらいには終わっていたんです。だから、ダビングの時に途中の映像を観た時は、すごく新鮮な気持ちでした。その後、編集を経て全部観たのですが、ダビングから完成までの短期間で、作品が底上げされていたんです。スタッフの皆さんが頑張ってくれたことが伝わってきて、嬉しかったですね。

――「映像としてこう仕上がったんだ」という驚きがあった部分はありましたか?

岡田:すでにコンテは見ていたので、全体の印象が大きく違うということはありませんでした。ただ、今までの座組でやってきた作品とはちょっと違う雰囲気を感じましたね。もちろん大切にしている部分は変わらないんですけど、舞台が東京になったこともあり、この座組ならではの空気みたいなものがより強くなったのかなと感じました。

――『ふれる。』はファンタジーの要素もあり、これまでの秩父三部作とは少し違った空気感を感じたのですが、構想段階ではどのようなアイデアや課題があったのでしょうか?

岡田:次の企画を話し合う中で、長井監督から「これまで女性主人公が多かったから、今度は男同士の友情や、共同生活をテーマにした作品を描いてみたい」という提案がありました。同時に、ファンタジー要素を取り入れたいというオーダーもありました。おそらく、これまでの長井監督は完全なファンタジー作品を作ることに対して少し苦手意識があったようにも思うんです。

――「男の子同士の共同生活」と「ファンタジー」という2つのお題からストーリーを広げていったのですね。

岡田:このファンタジーと人間関係の話のバランスには本当に悩みました。私たちのスタイルとして、長井監督の好みや苦手なものを考えながら、ひたすらアイデアをぶつけて「ダメ」「これならアリ」みたいな千本ノックをするんです(笑)。今回は最初に、人型の不思議な存在とのファンタジー路線で考えていましたが、それは結局NGになりました。

――最初のアイデアから、現在の「ふれる」というキャラクターに至るまでには、いろいろな試行錯誤があったんですね。

岡田:人型のキャラだと存在感が強すぎると言われたんです。3人の話にしたいのに、ファンタジー設定を背負ったキャラが目立ちすぎてしまう。長井監督は「あくまで、この3人の関係性を描きたい」と。なるほどと思ったんですよね。そこで、お互いの気持ちが分かるというネタを活かしつつ、いかに男子3人の話にするか……そのバランスにすごく悩みました。結局、ファンタジー要素の強いキャラを前面に出すんじゃなくて、そのキャラがいるからこそ起こる展開や出来事を考えていって、後半の流れを作りました。

――「ふれる」はあくまでそこにいて人を結びつける存在で、言葉は全く喋りませんよね。それも最初から決まっていたのでしょうか?

岡田:最初、鳴き声はあったんですけど、やっぱり使わないでいこうと。なので、声や言葉を発しない「ふれる」をどうやって表現していこうか、結構悩みました。長井監督や田中さんが男子たちのキャラクター描写は膨らませてくれると思っていたので、「ふれる」の幸せや切なさをいかに自然に、大げさじゃなく描くかを意識していました。「ふれる」はいつもみんなのそばにいて、みんなが仲良くあることを望んでいる。もっと言えば、そこにしか自分の存在意義がないと思っているキャラクターなんです。だから、不思議な存在によって繋がれた3人の話なんだけれども、脚本としては、“「ふれる」の切なさ”みたいなものも描けるといいなと思って。

――では、そんな「ふれる」をタイトルにすることについては、どのような経緯で決まったんでしょうか? 

岡田:タイトルは、キャラクターの名前と一緒に企画・プロデュースの川村元気さんと話して決めたんだと思います。タイトルを長くするか短くするかという話題も上がりました。

――秩父三部作は、キャッチーでありながらどれも長めのタイトルでしたね。

岡田:『あの花』については長いタイトルにしたいという希望があったんですが、以降は長さに関してはあまり意識していなかったんです。今回はシナリオを進めていく中で、「ふれる」の成り立ちみたいなところと、タイトルの響きがしっくりきたんです。フレーズとしては短いけど、作品の本質を表現できているんじゃないかなと思いました。

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