福原遥の二面性と松雪泰子の冷酷さの応酬 『マル秘の密子さん』で序盤から変化したもの

 「君が変わったから世界が変わったんだ(中略)変わることは悪いことじゃない」と、彼女の自分でも処理しきれない気持ちに寄り添い声を掛けたのは遥人(上杉柊平)だ。彼女と対立しながらも知らず知らずのうちに影響を受け、自らの意志に関係なく纏わされていた鎧を脱ぐことができた遥人のぶっきらぼうな優しさが染みる。誤解を受けやすいものの、実は困っている人がいると見て見ぬふりのできない心優しい遥人こそが“レモンの君“だった。

 自由にビジョンを描いていく父親の謙一に劣等感を抱いていたようだが、細かなところにまで目を配らせられ、考えるより先に人のために動ける遥人には正真正銘“謙一イズム”が引き継がれている。遥人の荒削りで朴訥で不器用な優しさは取り繕われていなくて嘘がない。そんな少し言葉足らずな彼の真意や歯痒さを上杉は自然と見せてくれている。

 さて、夏が密子に急に他人行儀に接するようになったのは、例の火事の真相に近づくと密子の身に危害を加えるという脅迫状が届いていたからだった。いつどこで盗聴されているかもわからず、誰にもそれを打ち明けず自分一人が悪者になり嫌われるように仕向ける。元々心優しい夏ゆえにそれがどんなに刺すような胸の痛みを伴うことだったか想像に易しいが、“自分のため”よりも“大切な人のため”であればどこまでも頑張れる夏のことだ。その思惑を勘違いしてしまうほどの冷酷な対応ぶりは見事だ。最も変化幅の大きい夏を演じる松雪の、視る者に幾重もの解釈を許すような、見返すとまた別の真意が浮かび上がってくるような奥深い表情や佇まいは流石としか言いようがない。本作を通して一番見た目や風格が変わったのは間違いなく夏だが、大切なものはずっとずっと変わらず彼女の中にあることを信じさせてくれる説得力もしっかりと持ち合わせている。

 そんな心やさしき人たちの善意を逆手にとって自分だけ得をしようとしている人間は一体誰なのか。美樹(渡辺真起子)に監禁されてしまった夏を密子は救い出せるのか。また姉の命を奪ったあの火災を仕組んだ真犯人は誰なのだろうか。

■放送情報
『マル秘の密子さん』
日本テレビ系にて、毎週土曜22:00〜放送
出演:福原遥、松雪泰子、上杉柊平、清水尋也、志田彩良、吉柳咲良
脚本:丑尾健太郞、藤岡明子、上野詩織、ばばたくみ
演出:中茎強、小室直子、伊藤彰記、苗代祐史
チーフプロデューサー:田中宏史
プロデューサー:鈴木亜希乃、柳内久仁子
音楽:Ken Arai
制作協力:AX-ON
製作著作:日本テレビ
©︎日本テレビ
公式サイト:https://www.ntv.co.jp/maruhi-mitsuko
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