『アガサ・オール・アロング』解説レビュー ダークでカオスな物語&MCU重要作への布石か

 ついに9月19日から配信開始となったマーベルのドラマシリーズ最新作『アガサ・オール・アロング』。今作がドラマシリーズ第1作『ワンダヴィジョン』と密接に関わっているからこそ、感慨深いものがある。あれから現実世界でも作品世界でも3年が経ち、私たちはヴィラン・アガサの秘密に迫ることになる。そんな本作『アガサ・オール・アロング』の第1話・第2話の解説レビューを、前作の振り返りとともにお送りする。

『ワンダヴィジョン』のラストで魔力を奪われたアガサ

 『ワンダヴィジョン』をまだ観ていない、または観たけど忘れてしまったという鑑賞者は、『アガサ・オール・アロング』の第1話の冒頭に少し困惑するはず。なぜなら彼女は“刑事ドラマに出てくるような”刑事として現場捜査をしているのだから。そこで少しだけ『ワンダヴィジョン』のラストから本作に至るまでをおさらいしよう。これさえ読めば本作への準備はバッチリだ。

 『ワンダヴィジョン』で初登場した魔女アガサ・ハークネス(キャスリン・ハーン)は、ワンダ(エリザベス・オルセン)の隣人になりすまし、ウエストビューという街に異常現実をもたらしたワンダの強大な魔力を知り、奪ってしまおうと暗躍。アガサは、“禁断の書”と呼ばれる闇の魔術書「ダークホールド」の使い手で、そこに記載のある強力な魔女“スカーレット・ウィッチ”になる素質をワンダの中に見たのだ。最終話の一騎打ちの際、自分を攻撃した者の魔法を奪うアガサはワンダに自分を攻撃させ、魔法を吸収したかのように思えたが、ワンダは “スカーレット・ウィッチ”として覚醒し、アガサから“教わった”「結界の中で魔法を使えるのは結界を作った魔女のみ」というルールを応用して、逆に彼女から魔力を奪ってしまう。そして彼女を“詮索好きの隣人アグネス”という役でウエストビューに住み続けるよう洗脳したのだった。

 ワンダの物語は映画『ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス』に繋がり、「ダークホールド」の壮絶な魔力を手にしたワンダがウエストビューで作り出した自分の息子たちを別宇宙から連れてこようと暴走。結果、“別次元のワンダ”から息子たちを奪おうとするも拒絶され、自分の双子がもう存在しないことに気づいた彼女は、絶望すると同時に、全宇宙の「ダークホールド」を抹消する際に建物の瓦礫の下敷きになった。実はこの時、ワンダが本当に死んだのかどうかは今日まで曖昧になっている。

※以降、『アガサ・オール・アロング』第1話、第2話のネタバレを含みます。

『アガサ・オール・アロング』が仄めかす、ワンダとアガサの類似性

 さて、ここまでおさらいした『ワンダヴィジョン』などの過去作を踏まえると、アガサがアグネスとして殺人事件の捜査をしている理由がわかる。オープニング映像も「ザ・どこかで観たクライムサスペンスドラマのオープニング」として作られており(『トゥルー・ディテクティブ』のオマージュ)、それが笑ってしまうくらいやたら再現性が高い。車内シーンから始まるのは『ワンダヴィジョン』の第1話と同じなのが面白いが、何よりそこも含め死体遺棄現場の調査をするシークエンスが、完全にエミー賞受賞のサスペンスドラマ『メア・オブ・イーストタウン/ある殺人事件の真実』の再現パロディになっているのだ。

 しかし重要なのはそこではない。第2話まで観た上で再度第1話を観直すと、なんと車内でアグネス(アガサ)が鼻歌で歌っていた曲は「Ballad of the Witches' Road」(「魔女の道のバラッド」)、あの魔女の道を呼び出す儀式で歌っていたバラッドなのだ。魔女としての記憶を失っていてもこの曲が彼女の心に染み付いていること、それを車で森の中の道を走りながら鼻歌している点から、彼女が本当に辿り着きたい道が「魔女の道」であることが示唆されている。加えて、少年への取り調べの際に「道なら今朝通った。悲惨なもの(現場)に通じていた」というアガサのセリフも、“魔女の道”を辿る者が迎えるであろう結末と共通している。

 こんな具合に、一見全てが虚構の世界に思えた第1話には、実は現実につながる重要なヒントがいくつも描かれている。その中でも触れておきたいのが、“アグネスの息子”についてだ。刑事ドラマの世界の中で、アガサは家に帰ると誰もいない子供部屋を悲しそうに覗く。その中で映されたのが、「ニコラス・スクラッチ」と名のある表彰状とその横に置かれた“うさぎ”の置物。実は『ワンダヴィジョン』に登場し、本作でも姿を現すアグネス(アガサ)のペットのウサギの名前も「スクラッチー」なのだが、何を隠そうこの名は、マーベル・コミックに登場するアガサの息子の名前である。ここにワンダとアガサの共通点が垣間見える。つまり、どちらも息子を亡くし、悲しみに暮れる母親なのだ。

ハロウィーンにぴったりな「正統派魔女ドラマ」としての魅力も抜群

 本作は、「魔女ものドラマ」としてもかなり見どころに溢れている。第2話では“魔女の道”に挑むために仲間探しをするアガサ。ここで登場する予言の魔女リリア(パティ・ルポーン)、薬の魔女ジェニファー(サシェア・ザマタ)、護衛の魔女アリス(アリ・アン)がとにかくいいキャラをしているのだ。みんなアイデンティティを隠しながら魔女として生活しているが、インチキ預言者に大炎上インスタグラマー、ショッピングモールのセキュリティを解雇された元警官と、それぞれ落ちぶれに落ちぶれている。そんな彼女たちが渋々アガサに協力して “魔女の道”を行くことになる。

 この儀式のシーンで歌われる「Ballad of the Witches' Road」は、かの『アナと雪の女王』における数々の名曲を生み出したクリステン・アンダーソン=ロペスと夫のロバート・ロペスが手がけただけに、やはりキャッチーで耳に残る。新たなディズニーハロウィーンソングの定番になりそうな曲だ。そう、『アガサ・オール・アロング』は、マーベル作品としてだけでなく、『ホーカス・ポーカス』などのディズニーによるハロウィーンの定番人気作の雰囲気を持っている点も魅力的なのだ。

 キャスト陣も素晴らしい。アガサ役のキャスリン・ハーンは前作に引き続き相変わらずの演技力で、座長として十分な牽引力を発揮している。そして、初のMCU参戦となるキャスト陣にも注目してほしい。おそらくアガサと過去に恋愛関係にあったことが伺える魔女リオ・ヴァイダルを演じるのは、オーブリー・プラザ。“インディー映画の女王”がマーベルのようなメジャー作品に出演するのは珍しいが、特に『ホワイト・ロータス/諸事情だらけのリゾート』シーズン2に出演した際にエミー賞助演女優賞にもノミネートされ、アワードシーンでも注目される存在になった。そんな彼女が演じるリオとアガサの訳ありな雰囲気が絶妙で、プラザとハーンのケミストリーが凄まじい。

 予言の魔女リリア・カルデル役を演じているのは、名優パティ・ルポーン。『ドライビング Miss デイジー』で知られるが、最近ではアリ・アスター監督作『ボーはおそれている』にボーの母モナ役で出演していたことが記憶に新しい。

 薬の魔女ジェニファー・ケイルを演じるサシェア・ザマタは今作が初のメジャー作品への出演となるが、過去にマーベルのアニメシリーズ『マーベルのムーンガールとデビルダイナソー』に声優として参加している。

 護衛の魔女を演じるアリ・アンは『オレンジ・イズ・ニューブラック』や『スーパーナチュラル』など数多くの海外ドラマに出演してきたことで知られ、海ドラファンにとっては見たことのある俳優かもしれない。

 アガサ同様『ワンダヴィジョン』から登場するキャラクターであり、大地の魔女として抜擢されたMrs.ハートことシャロン・デイヴィスを演じるデブラ・ジョー・ラップも、『THIS IS US “ディス・イズ・アス 36歳、これから』や『ザット ’70s ショー』シリーズで知られているため、ドラマファンには顔馴染みの俳優である。急に数合わせで巻き込まれたMrs.ハートが“本当に”魔女なのか、それともただの一般人なのか、その真相もお楽しみに。

 そして何より“ティーン”を演じるジョー・ロックは、『HEARTSTOPPER ハートストッパー』で鮮烈なデビューを果たした新進気鋭の若手俳優! マーベルドラマへの大抜擢を経て、今後の活躍にも注目したい。

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