“4K上映”ってどういうもの? 映画館はプロジェクターの“10年契約”に縛られている

 少し話題が変わりますが、この件に関わることで「映画館」という施設におけるテクノロジーの進度についても書かせてもらいたいと思います。映画館のような施設ビジネスにとっては、根本的な設備投資というのは非常に大きな負担になります。プロジェクターはメーカーや性能により異なりますが、まあ1台につきざっと1千万円以上は掛かります。10スクリーン以上あるシネコンなら1億円はゆうに超えるわけです。それは映画館のような客単価が少額のビジネスにとっては大きな金額です。このためプロジェクターはスマホじゃないですが、大抵10年契約で分割払いというリース形態での導入になります。つまりそれは一度導入したら10年は変更できない、という意味でもあります。

 そして、ある程度全国的に普及しないと、上映素材だけを高度にしていっても対応しませんので、新しくできた映画館が最新機種を入れたとしても、活用が難しいというわけです。これが映画館の最新テクノロジーへの対応を遅延させる大きな原因になっています。

 このことは「映画館の継続」ということについても大きな課題をもたらしました。かつて35mmフィルムで上映していた時代、その映写機は完全にアナログであり、メンテナンスや簡易的な修理は各劇場の映写技師が行うことができ、その耐用年数は30年を超えるような長期に渡るものでした。

 しかしデジタルシネマになった今、シネマプロジェクターといっても、たぶんあなたの会社の会議室にもあるであろうノーパソとプロジェクター(あるいはモニター)と基本的に同じものです。本来ならパソコンが10年持つでしょうか。一般的にはもっと早い段階で買い換えるものでしょう。

 映画館では、2010年前後に本格的に35mmフィルムからデジタル上映に切り替わりました。2010年ですよ。それはiPhone4が発売された年です。YouTubeは3年前に始まっていますし、Blu-rayも当然流通していました。誰もがデジタルカメラか携帯で写真を撮影するようになって、もうとっくにコンビニで「写ルンです」のようなレンズ付フィルムカメラなんて売ってない時です。この特にまだアナログだったのが映画館です。
 
 これほどテクノロジーについていけなかったのが現実の映画館であり、フィルムから切り替わった今も「10年契約」がいろいろと縛るわけです。2009〜2012年が本格的なデジタル上映への切り替わりの時期だったため、その10年後である2019年〜2022年が新プロジェクターの導入ラッシュだったり、その反面、動員の厳しく機材更改が困難なシネコンやミニシアターの閉館ラッシュに繋がったわけです。この時期に状況の厳しい映画館のためのクラウドファンディング等に参加された映画ファンの方も少なくないでしょう。

 話を戻します。結論「4K上映」は、「THX」や「DOLBY CINEMA」のような厳しい認定条件をクリアした「認証」のことではなく、あくまで上映素材フォーマットや機材の基本機能に依拠したもので、クオリティを保証したものではない、ということです。4K素材でなくても、4Kプロジェクターでの上映でなくても、それを両方満たす劇場以上の美麗さを出している劇場もあると言うことは頭の片隅に置いておいていただければと思います。

 また併せて強くアピールしておきたいのは、映画館の魅力は必ずしも上映スペックだけではない、ということです。「なぜ映画を映画館で観るのか?」という問いに対して「大画面、大音響」という解が必ずトップに挙がり、まあそれはその通りではあるのですが、実は根源的な魅力は「日常からの遮断」にあると言いたいのです。日常にいては味わえない、パブリックな場所であるということと、暗闇のプライベート感があることの融合こそが、映画館の魅力の本質だと思うのです。

 とはいえ、ゲームにおけるグラフィック論争と同じように、ゲームは面白いかどうかであってグラフィックじゃないというのも正論であれば、グラフィックがしょぼいとゲーム自体がしょぼく感じるというのも正論であると思うので、映画館も画質、音質などのスペックを突き詰めることと、作品選択や企画や付帯設備の魅力を突き詰めることの両輪のバランスでやっていくしかないのでしょうね。

 なんかまた鑑賞体験価値を上げる画期的なアイディア浮かばないかなあ、と頭を抱えつつ、まずは着実にできるクオリティアップを目指して進む日々。できることは常にあり続けるはず。

 You ain't heard nothin' yet !(お楽しみはこれからだ)

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