『虎に翼』滝藤賢一の喜怒哀楽が味わえる極上な回に “香淑”をもう一度取り戻した香子

 ガンの手術後、仕事を休んで家で寝たきりとなっている多岐川(滝藤賢一)。『虎に翼』(NHK総合)第120話では、病が進行した多岐川の最期が描かれた。

 印象的なのは家族のようなものの中で、安らかに亡くなっていくその幸せそうな笑顔。元々多岐川にとっては、汐見(平埜生成)と香子(ハ・ヨンス)が家族同然の存在であったが、そこに娘の薫(池田朱那)が生まれ、大学生になった薫は朝鮮人であることを黙っていた母を軽蔑しながら、逃げ込んでいたのはいつも多岐川の部屋だった。多岐川と薫のやり取りはそこまで描かれていないが、例えば薫が幼少期に遊んでくれていたのが多岐川、というのは想像に難くない。薫にとって多岐川は安心できる存在だったのかもしれない。

 そんな薫が香子と和解。「薫の前で崔香淑を取り戻してみたい」と朝鮮人であることを偽らないことを誓うと、多岐川はゆっくりと目を開け「愛だなあ、佐田くん」と嬉しそうに笑みを浮かべる。法務大臣から少年法改正に関する諮問が法制審議会になされたのに対し、家庭裁判所創立メンバーが多岐川の元に集まり、意見をまとめることに。やってきたのは寅子(伊藤沙莉)だけでなく、稲垣(松川尚瑠輝)と小橋(名村辰)の姿も。久々に再会した2人を多岐川は優しく抱きしめ、「岡山家裁所長、鹿児島家裁所長。遠いところ、わざわざありがとな」と感謝を告げる。

 香淑の兄・潤哲(ユン・ソンモ)を迎えての5人での食卓は劇中での彼の最期の姿となった。香淑も薫と似て若い頃は気が強かったという他愛もない話を長尺で回しながら、カメラはずっと多岐川の幸せそうな表情を映し続ける。

 一方で、怒りに打ち震える多岐川の姿もあった。家裁と子供たちに生涯を捧げてきた多岐川にとって法務省の少年法改正は許しがたい内容。メモをする寅子たちを前に、多岐川は冷静に、かつ徐々に怒りを滲ませながら反対意見を述べていく。あごにまで涙が伝い、目を見開きながら「非行少年の更生のため、愛を持って実務に携わる我々は、強く望む!」と訴える多岐川を演じる滝藤賢一の最後の力を尽くす魂のような芝居だ。

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