『ジガルタンダ・ダブルX』の強烈なグルーヴ感 「映画をナメるな」という“喝”を体感せよ

『ジガルタンダ・ダブルX』の喝を体感せよ

 一方、カメラを持っているレイは、血を見ると失神してしまう生粋の臆病者。ちっぽけな幸せと正義感を持つ小市民だが、実はハッタリをかます才能だけはズバ抜けていた。さらに暗殺のために映画監督になりきって「アクション!」と指示を出した途端、映画作りの魅力に取りつかれてしまう。シーザー暗殺という目的を抱えつつ、物語が進むにつれて、どんどん映画監督になっていくレイは、気が付けば単なる臆病者から別人に変化し、シーザーと同等に観客を翻弄する。

 シーザーとレイは正反対の人間だが、「映画に憑りつかれた」という一点においては同じであり、同志である。2人は対立と疑心暗鬼、そして隠された因縁を経て、やがて奇妙な信頼関係を築いていくが……そこで2人の物語は思わぬ方向に転がり始める。共通の敵が現れるのだ。このとき2人の武器になるのは、もちろん「映画」である。拳も銃も役に立たない戦いの中で、ただ映画だけが武器になるのだ。そして……。

 と、これ以上は書かないでおこう。何故なら本作は、あまり情報を入れない状態で観るのがベストだからだ。ファンク/ソウル色の強い音楽とダンス、ハッタリ満載のアクション、コテコテのギャグなど、いわゆる「楽しいインド映画」と聞いて思いつく要素はしっかりある。しかし、それらで前半では観客を油断させておいて、後半から、さながらシーザーとレイが別人に変化していくように、物凄い勢いで映画のトーンは変化し、観客の胸倉を掴むような強烈なメッセージをブチかましてくる。その「カマし」に込められているのは、映画愛という優しい言葉ではなく、「映画をナメるなよ」という痛切な「喝」だ。70年代のファンク/ソウルミュージックと、テンポの良い映像が生み出す強烈なグルーヴ感と、それと共に放たれる「喝」を是非とも劇場で体感してほしい。激しく、厳しいが、必ずや気合が入るはずだ。

■公開情報
『ジガルタンダ・ダブルX』
新宿ピカデリーほかにて公開中
監督・脚本:カールティク・スッバラージ
出演:ラーガヴァー・ローレンス、S・J・スーリヤー、ニミシャ・サジャヤン
配給:SPACEBOX
2023年/タミル語/172分/PG12/原題:Jigarthanda Double X/日本語字幕翻訳:矢内美貴、加藤豊/協力:ラージャー・サラヴァナン
©Stone Bench Films ©Five Star Creations©Invenio Origin
公式サイト:https://spaceboxjapan.jp/jdx/
公式X(旧Twitter):https://x.com/spacebox_jp

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