『フォールガイ』はスタントアクション映画の決定版 現在の映画界の状況も反映した一作に

 スタントドライバーが50人参加といった、とてつもない規模で展開するシドニーの橋でのチェイスシーンでは、驚くことに合成やCGでなく、実際にその場でアクションを敢行しているのだという。少しでも計算が狂えば、大惨事になる可能性があるなか、ここではライアン・ゴズリング本人がスタントを演じる箇所もある。市街地において、このような撮影を成功させるスタントチームの連携の見事さには、驚嘆させられるほかない。

 さらに、チームの一人であるトロイ・ブラウンは、45メートルという高度を飛ぶヘリコプターから、ゴズリングに代わり落下するというアクションを成功させた。これら、命にかかわる数々のスタントは、専門家たちの技術や経験があってこそ、達成が叶った挑戦だといえよう。まさに本作は、スタントパフォーマーや、スタントシーンに尽力してきた者たちが輝く作品だといえよう。

 1999年に『スター・ウォーズ』新三部作が、CGによる大規模な合成技術によって映像表現の常識を覆して以来、ハリウッド大作映画の危険なスタント撮影において、スタジオ内で綿密な用意ができるようになったり、リスクを大幅に軽減することが可能となっていった事実がある。それが常識になっていくことで、観客にとって目新しい映像表現を実現したり、演技をする者たちの安全を守る結果につながってきたことも確かだ。しかし一方で、過去のアクション映画と比べて映像の迫真性に欠けることが指摘されることも多くなった。

 だからこそ、近年トム・クルーズが『ミッション:インポッシブル』シリーズのなかで、自身が危険なスタントアクションを演じているのが話題となり、評価を高めるという状況も生まれている。この危険なスタントへの憧れという揺り戻し現象の波に、本作も乗っているということなのだろう。そして必然的に本作は、1990年代と、それ以前の時代を感じさせる懐かしい雰囲気のタイトルとなったのだ。それはまた、存在価値が比較的薄まっていたといえるスタントパフォーマーの復権を意味してもいるとも考えられる。

 とはいえ、過去の映画撮影では負傷、死亡事故がありふれていたことも、紛れもない事実。演技者がより高いリスクを払うことが当たり前だった時代に逆行することへの葛藤をおぼえる点があるというのも正直な気持ちだ。生身のスタントを至上のものとして称賛していけば、機を見るに敏な映画スタジオがエスカレートしていくことは間違いなく、俳優側が危険な撮影に追い込まれる機会が増えていき、大事故が発生するケースも増えかねない。そうなれば、観客もまたそうした状況に一部加担することとなってしまう。

 ただ、もし生身のスタントが以前のような人気を取り戻すなら、本作のようなプロフェッショナルなチームによる安全対策の需要も高まっていくはずだ。その意味で『フォールガイ』は、スタントパフォーマーの価値や功績を再評価するだけでなく、実写アクション映画における新たな局面を指し示すとともに、その後に起き得る問題の対処についても示唆する一作になったといえるのではないだろうか。

■公開情報
『フォールガイ』
全国公開中
監督:デヴィッド・リーチ
出演:ライアン・ゴズリング、エミリー・ブラント、アーロン・テイラー=ジョンソン
配給:東宝東和
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