S・S・ラージャマウリの“秘密”に迫る ドキュメンタリー『モダン・マスターズ』の真の価値

 『バーフバリ』シリーズ2作や、『RRR』(2022年)を世界的なヒットへと導き、日本でも多くのファンを獲得している、インドの映画監督、S・S・ラージャマウリ。その物語や演出における、圧倒的な奇想天外さと確かな表現力は、新作ごとに映画界を驚嘆させ、まだまだ若い50歳という年齢ながら、彼をすでに世界屈指の巨匠の地位にまで押し上げさせている。

 しかしインド国外においてはこれまで、ラージャマウリ監督自身について知る機会はなかなか多くはなかったといえるだろう。そんな彼のパーソナリティや、真に個性的な作品づくりの秘密に迫るドキュメンタリー作品が、ついに登場した。それが、Netfix配信の『モダン・マスターズ:S・S・ラージャマウリ』である。

 ここでは、そんな本作『モダン・マスターズ:S・S・ラージャマウリ』の内容を紹介しながら、その情報の真の価値について、深い部分まで考えていきたい。

 本ドキュメンタリーの流れは、S・S・ラージャマウリ監督に関連する人物たちや、ジェームズ・キャメロン監督やジョー・ルッソ監督などの世界的な映画人の語り、撮影現場を捉えた映像、そしてハイデラバードやロサンゼルス、銀座の路上での、映画記者のアヌパマ・チョープラーによる監督本人へのインタビューなどで構成されている。

 また、『バーフバリ』シリーズ2作や『RRR』の裏話はもちろん、ラージャマウリ監督を最初に広く知らしめることになった『シムハドリ』(2003年)、歴史ファンタジーに挑戦し大きな成功を収めた『マガディーラ 勇者転生』(2009年)、不慮の死を遂げてハエに転生した男が、恋人を守るためにハエの姿のまま筋トレをして敵に挑むという、奇想天外すぎる一作『マッキー』(2012年)の撮影映像やエピソードも語られる。

 やはりわれわれが最も知りたいのは、どのようにあのような映画が撮れるのかという点だ。その理由の一つとして、ラージャマウリ監督が尊敬する黒澤明監督がそうであるように、絵づくりに厳密な完成度を求め、理想の表現に近づくまで、何度でもスタッフを動かし俳優たちに演技をさせるという、監督の完璧主義者の面が明かされる。

 アメリカでもブームを巻き起こし、アカデミー賞授賞式でも受賞だけでなく生でパフォーマンスされた『RRR』のダンス「ナートゥ・ナートゥ」。その劇中の場面は世界の多くの観客を興奮させ笑顔にさせたが、実際に現場で踊っていた俳優ラーム・チャランは、この撮影について「監督は異常なほどの完璧なシンクロを求め、撮った映像を止めてショットごとに私たちの手の長さを測ってた」と証言し、同じくダンスをしたN・T・ラーマ・ラオ・Jr.は、「あのシーンを見ると、いまだに筋肉が痙攣する。また踊らせようとしても絶対にやらない」と語っている。

 「ナートゥ・ナートゥ」のシーンは、一般的な映画のミュージカルシーンとは何か異なる印象を感じるところがあるが、そういったエピソードを知ると、確かに納得することができる。複数が踊るダンスにおけるシンクロの美しさが重要であることは誰しも理解し、多くのクリエイターが追求している部分ではある。しかしそれをもう一歩進め、映像の質にこだわり抜くことで、そこには完成度における“少しの差”が生じることになる。その“少し”こそが観客に未知の感覚を呼び起こし、結果的に心を大きく動かすことに繋がるのだ。

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