『地面師たち』はなぜ共感できる? 好評の理由と現代に出現したことの意味を考える

 問題は、このような多額のカネを騙し取ろうとする犯罪者たちの物語が、なぜ娯楽として成立するのかという点だ。詐欺の被害者たちが不幸になっていくのに、視聴者が地面師たちの計画がバレるかどうかでハラハラするというのは、考えてみれば奇妙な話だ。ましてや、本シリーズは実際の事件をヒントに作られているところがあるはずなのである。そして、豊川悦司が演じるハリソン山中は、次第にその凶暴な本性を剥き出しにしていくのだ。

 そんな本シリーズが、ぎりぎりのところで共感できるところがあるのは、騙される側の方が社会的な強者だという部分があるからだろう。大規模な事業を展開する開発業者(デベロッパー)は、日本経済において大きな力を持ち、しばしば政治権力とも繋がることがあるのは周知の通りである。本シリーズでターゲットとなるマイクホームズの真木社長(駿河太郎)や、石洋ハウスの開発事業部部長・青柳(山本耕史)は、そんな権力構造のなかでさらなる利益を得ようと奔走する、典型的なキャラクターとして描かれている。

 この二人の人物が大きな仕事を手がけるなかで、女性と不倫関係に及ぶなど、性的な欲望と仕事への情熱が合流しているように表現されているところは非常に象徴的だ。つまり、ここで大規模な開発事業をおこなう企業の象徴かのように描かれている人物たちは、いみじくも山中が言及していたように、そして青柳も部下の前で述べていたように、歴史上の戦争や略奪などと重ねられるのだ。そしてそれは、女性への支配欲というかたちでも表出してしまう。

 さらに青柳が、都市のなかの古いものを積極的に壊し、際限なく建て直していくという、無節操な新陳代謝を進めようとしている姿も印象深い。近年、日本経済が落ち込むのと反対に、新たな大規模商業施設が作られ続けていることが、問題視されることがある。そこで自然環境が破壊されるとなれば、なおさらだ。東京の中心部で閑散とした商業施設があるにもかかわらず、都内では次々に商業的な開発事業がおこなわれているのである。このような動きを、日本経済復調のために必要不可欠だと考える人もいるだろうが、いまの日本において、こういったビジネスが持続可能なのかという点で疑問を持つ人は少なくないのではないか。

 そんな、ある意味で「マッチョ」ともいえる土地開発の執念を止めるものが、もちろん詐欺行為であっていいはずがない。しかし、森で自給自足の生活を送ることもある山中という人物が、架空の土地という“空なるもの”をデベロッパーに提供するというのは、ただ利益を追求するだけの中身のないビジネスに対する、痛烈な皮肉だと受け取ることもできる。

 それだけでなく地面師たちの悪事は、宗教のビジネス化、高齢者の増加や経済格差問題、若年女性の性的搾取などなど、いまの日本社会に存在するさまざまなものを、きわめて“えげつなく”、しかしリアリティを保ちながらあぶり出してしまう。本シリーズの監督で、脚本をも手がけた大根仁監督は、TVドラマシリーズ『モテキ』(テレビ東京系)や、『奥田民生になりたいボーイと出会う男すべて狂わせるガール』(2017年)などで、男女間のパワーバランスやファッション、メディア業界の嫌らしい部分を、やはり“えげつなく”表現してきた。その意味で、本作は大根監督だからこその面白さに溢れた作品であり、だからこそ視聴者に響く内容となったといえるだろう。

 一方で、本シリーズ最終エピソードのクライマックス場面については、他の場面ではリアリスティックな表現ができていたのに対し、ここだけ異様に作り物めいていて、展開やシチュエーションに無理があると感じられたのも正直なところだ。この部分は、世界的大ヒットとなった韓国のドラマシリーズ『イカゲーム』とは、ちょうど逆転的な内容だと感じられる。ストーリーが盛り上がる箇所において、いかに抑制を利かせながら、日本の地上波的な意匠から脱却していくかは、今後の課題となりそうだ。

 だが、主題歌を用いずに、日本のドラマ作品としてはストイックだと感じられる、石野卓球の劇伴、楽曲が使用されているのは、日本の地上波のドラマではなかなかあり得ない、Netflixならではのアプローチだといえよう。世界に対して作品を届けるといった試みにおいては、基本的にはこのくらいクールな姿勢の方が、むしろ有利なのが事実。このようなところでも、本シリーズの存在価値が際立っているのだ。

■放送情報
Netflixシリーズ『地面師たち』
Netflixにて独占配信中
監督・脚本:大根仁
出演:綾野剛、豊川悦司、北村一輝、小池栄子、ピエール瀧、染谷将太、松岡依都美、吉村界人、アントニー、松尾諭、駿河太郎、マキタスポーツ、池田エライザ、リリー・フランキー、山本耕史
原作:新庄耕『地面師たち』(集英社文庫刊)
音楽:石野卓球
エグゼクティブ・プロデューサー:高橋信一
プロデューサー:吉田憲一、三宅はるえ
製作:Netflix
制作プロダクション:日活、ブースタープロジェクト
©新庄耕/集英社

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