桜田ひより、子役から令和のヒロインに 『ブルーピリオド』『あの子の子ども』で増す勢い
そんな桜田が再び大きな注目を集めたのが、2022年に大ヒットしたドラマ『silent』(フジテレビ系)だ。目黒蓮演じる中途失聴者の想と、川口春奈演じる高校時代の恋人・紬の再会から始まるラブストーリーで、桜田は想の妹・萌を演じた。想と萌は仲の良い兄妹ではあるが、ベタベタした関係ではない。それでも誰より萌は想のことを気にかけており、家族の中でも一番早く手話を覚え、寄り添おうとした。そんな萌の、想を心配するあまり過干渉気味になっている母親に対する複雑な感情や、紬を素直に受け入れがたい気持ちを繊細に表現した桜田はこのドラマにおけるベスト助演と言えるだろう。
同作で演出を担当した風間太樹監督とは翌年、映画『バジーノイズ』で再タッグを組み、「自分の演技スタイルが確立された感じがあります」(※1)と語るほどの手応えを得た。事実、突拍子も無い行動に出るヒロイン・潮を演じた桜田の光と影が交錯するような芝居に目を奪われっぱなしだった。2023年には映画『交換ウソ日記』でも空気を読みすぎてしまう不器用なヒロインを瑞々しく演じ、その年の日本アカデミー賞で新人賞に選ばれた桜田。“新人”という言葉に良い意味で違和感を覚えるほどに、数多くのドラマや映画に出演してきた彼女の魅力は豊富な現場経験で培ってきた適応力だろう。『バジーノイズ』と『交換ウソ日記』も同じラブストーリーとはいえ、かなりテイストが異なるが、桜田はどんな色にも染まることができる。
同じ作品の中でもシーンによって色を変え、『あの子の子ども』でもその力は顕著に現れている。このドラマは“高校生の妊娠”がテーマ。妊娠をきっかけに人生が一変する主人公の福を桜田が演じている。福は普通の高校生で、恋人の宝(細田佳央太)を前にした彼女の眼差しには親愛が溢れていて微笑ましい。だが、思ってもみない現実に直面した福の戸惑いが桜田の緩急ある芝居によって自分事のように胸に迫ってくる。10代の妊娠を描いたドラマは珍しくないが、多くの人が福と宝の行く末を固唾をのんで見守っているのは主演を務める2人の演技に依るところが大きいだろう。
同作をはじめ、桜田は実写化作品への出演が多く、『彼女、お借りします』(ABCテレビ・テレビ朝日系)や『神様のえこひいき』(Hulu)でも原作ファンから好評価を得た。そんな桜田が『ブルーピリオド』で演じる森まるは、美術部に所属する3年生。主人公の八虎よりも1学年上で、彼女が描いた天使の絵は彼が美術の世界に身を投じるきっかけとなる。
その後も八虎に影響を与え続ける森まる。祈りをテーマにした作品と同様に、彼女自身がどこかこの世のものとは思えない幻想的な雰囲気を纏っている。桜田の穏やかながら意志の強さを感じさせる佇まい、柔らかい声の出し方がキャラクターに説得力を与えていた。10年前に名子役として話題を集めた桜田ひよりは今、令和を代表するヒロインとして欠かせない存在となっている。
■公開情報
映画『ブルーピリオド』
全国公開中
出演:眞栄田郷敦、高橋文哉、板垣李光人、桜田ひより、中島セナ、秋谷郁甫、兵頭功海、三浦誠己、やす(ずん)、石田ひかり、江口のりこ、薬師丸ひろ子
原作:山口つばさ『ブルーピリオド』(講談社『月刊アフタヌーン』連載)
監督:萩原健太郎
脚本:吉田玲子
音楽:小島裕規(Yaffle)
主題歌:WurtS「NOISE」(EMI Records / W’s Project)
製作:映画「ブルーピリオド」製作委員会
制作プロダクション:C&I エンタテインメント
配給:ワーナー・ブラザース映画
©山口つばさ/講談社 ©2024 映画「ブルーピリオド」製作委員会
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