スクリーンを独占する大沢たかおを前に、震えながら涙を流してしまった。同じような体験をしたのは私だけではないはず。たとえ涙は出なくとも、彼の力演に誰もが圧倒され、震えたはずである。

　もちろんこれは、公開中の『キングダム 大将軍の帰還』でのこと。『キングダム』シリーズの主役は山﨑賢人だが、今回に関しては“もうひとりの主人公”ともいえる存在がいる。それを務めているのが大沢なのだ。

　『キングダム』シリーズは、かつて秦国の戦災孤児で下僕だった主人公・信（山﨑賢人）が戦乱の世で「天下の大将軍」を目指し、仲間たちとともに成長していくさまを描いた作品だ。

　シリーズ第1作目が2019年の春に封切られ、『キングダム2 遥かなる大地へ』（2022年）、『キングダム 運命の炎』（2023年）、そして今作『大将軍の帰還』と続いてきた。今作は前作『運命の炎』に引き続き、秦国と敵対する趙国の総力戦が展開。秦国軍総大将・王騎（大沢たかお）と趙国軍総大将・龐煖（吉川晃司）の因縁の対決が描かれる。

　本作で“もうひとりの主人公”ともいえる役どころを務めているのが大沢だと先述した。彼が演じる王騎は「天下の大将軍」と称される人物だ。そう、タイトルが示している「大将軍」とはこの王騎のこと。つまり大沢が演じているのはタイトルロールなのだ。

　実際のところ、今作は主人公である信の活躍を追ういっぽうで、王騎と龐煖の対決に力点を置いている。「天下の大将軍」を目指す信からすれば、王騎と龐煖の闘いはまさに頂上決戦。これまでとはあきらかにスケールの違う闘いが繰り広げられているのであり、その壮絶さに私たち観客も圧倒されるのだ。

　とはいえこれは、作品の構造上そうなっているというだけの話でもある。大将軍同士の闘いを前にして信たちは圧倒されている。各々の役割を果たす以外、彼らはほとんど何もできない。この構造に私たち観客も取り込まれるわけだ。目の前で起こっているのが頂上決戦だということを理解しているから、きちんと驚いたりするなどのある種の正しい鑑賞態度を取ることが、この作品をより楽しむことにもつながる。しかし私たちは、実際に純粋にただただ圧倒されるのだ。

　劇中の王騎のセリフに「将軍とは階級の名称に過ぎない」というものがある。まさにこれだ。私たちは本作を鑑賞するにあたり、前提として王騎や龐煖を“最強の存在”と正しく認識しなければならない。この認識なくして作品は成立しない。だがこれでは、あまりにも観客に頼り過ぎている。最強だと思えないものを最強なのだと自ら信じ込もうとするのは、非常に不健全である。だから大沢に求められるのは、『キングダム』シリーズにおける最強の存在である「天下の大将軍」を演じる者として、いかに嘘がないかということ。このあまりにも現実離れした作品の中でも、とくに現実離れしたキャラクターを演じるうえで、そこにどれだけの真実があるのか。私たちは心から、“王騎＝大沢たかお”を「天下の大将軍」だと認めているのではないだろうか。