上野樹里×林遣都の“幸福な出会い”は必見 『隣人X』が描いた“心で見ること”の大切さ

『隣人X』上野樹里×林遣都の幸福な出会い

 2023年12月に公開された映画『隣人X -疑惑の彼女-』のBlu-ray&DVDが、6月5日に発売された。本作は、第14回小説現代長編新人賞を受賞したパリュスあや子の小説『隣人X』(講談社)を原作に、熊澤尚人が監督・脚本・編集を手掛けた作品である。

※本稿は本作の結末に一部触れています。

 熊澤とは『虹の女神 Rainbow Song』(2006年)以来の17年ぶりのタッグである上野樹里と、『ダイブ!!』(2008年)以来の15年ぶりのタッグである林遣都という、監督と深い信頼関係で結ばれている俳優2人が出演する本作。本作Blu-rayの特典映像に収録されているメイキング映像において「本読みとリハーサルの時間を設けていただいて、当初の予定よりも3時間ぐらいオーバーしてずっと作品の話を監督と樹里さんとし続けた1日があったんですけど、僕としてはその時間がすごくたまらなく幸せで」と語る林と、「共演者の林遣都くんもとても素敵で、本当に役に入って一緒に作れたので、本当に2人で作り上げていく、監督と一緒に、それがすごく。できあがって自分が知らない部分もいっぱいあると思うので、客観的に作品を観る日を楽しみにしています」と語る上野の姿は、まさに本作が、そんな監督・俳優3人の幸福な出会いによって生まれたことを物語っていた。

 「惑星Xで紛争が起き、助けを求めてきた地球外生命体を、アメリカ政府は惑星難民Xとして受け入れた。Xは人間の姿に擬態化できる能力があり、人間を決して傷つけない固有性を持っていたからだ」と林遣都によるナレーションが冒頭にあるように、本作は人間と見た目が変わらない、惑星難民Xを巡って、混乱が生じていく様子を描いた作品だ。人々は、難民Xが「人間を決して傷つけない固有性を持って」いるとされているにもかかわらず、自分たちの日常を脅かす「侵略者」ではないかと不信感を抱き始める。その混乱は、次第に攻撃性を帯びていき、逆に彼らが、難民Xなのではないかとされた人々の日常を脅かし始めるのである。それこそ、相手を侵略者だと疑い、自分たちこそ正しいと思い込んでいる人々こそが、本当の侵略者なのではないかと感じずにはいられないほどに。

 「もし人間そっくりの地球外生命体が、人間の中に紛れ込んでいたとしたら」というSF的な主題を通して本作が描こうとしているのは、人が根源的に持つ「(自分と違うから)よくわからない相手」「よそもの」に対する警戒心や偏見、恐怖心であり、それによって生まれる差別意識である。本作はそれを2つの局面から見事に描き出した。1つは、前述した人の心の弱さであり、もう1つは、偏見の目に晒されてもなお輝く、自分のため、愛する人のため、自分らしく懸命に生きることができる人の美しさだ。その両翼を、林遣都と上野樹里がそれぞれ担った。前者を体現するのが林遣都演じる笹憲太郎であり、後者を体現するのが、上野樹里演じる柏木良子である。

 林が演じたのは、「日本にいるX」を探す週刊誌記者だ。やっとの思いで夢だった記者の仕事に就いているものの、次にヒット記事を書けなければ即契約を打ち切られてしまう状態で、祖母の入居施設の費用が滞るなど、追い詰められた状況にある。そんな彼は、Xに対し漠然とした不安を感じたこともあり、「X探し」にのめり込むことになる。一方で、X疑惑のある取材対象として出会った良子に惹かれ、その狭間で思い悩む。

 林自身も笹という役柄を「何種類もの感情が渦巻いていて、常に何かと何かの狭間にいて、翻弄されている役」と言及しているが(本作メイキング映像にて)、笹憲太郎という役柄が興味深いのは、その複雑さである。良子と一緒にいれるだけで幸せそうなのに、追い詰められて、良子と良子の周りの人々を傷つけてしまう。その中で生じる、思わぬ「痛み」は、「人間を傷つけない固有性を持っている」Xであることの証明とも言えるが、同時に、私たち観客が確かにその痛みを身に持って知っていることからもわかるように、人間であることの証明でもあった。

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