『アンチヒーロー』野村萬斎の身震いする警告 不正に手を染めた父を堀田真由は救えるか

 真相に近づくにつれて、刻々と国家権力による監視の気配が濃くなるのが不気味である。冒頭のシーンで、伊達原が発した「全てが思い通りになると思うな」は、明墨への警告として理解できる。倉田との関係を認めない伊達原が、わざわざ呼び出してまで釘を刺したのは、よほど12年前の事件に触れられたくないのだろう。明墨が検事を辞め、倉田から笑顔が消えた理由、そして桃瀬礼子(吹石一恵)の死につながる事実は、ドラマの後半で明かされると思われる。

 倉田は不正に手を染めており、弁解の余地はないのだが、肉親の情と職業上の義務の間で引き裂かれる姿は、悲劇の主人公そのものだった。倉田が守ろうとしたものは、権力にとって不都合な真実であるに違いない。一人の人間が自身の一生を棒に振り、良心を殺してまで守らなければならないものが、この世界にあるのだろうか。最後まで真実を口にしなかった父を、紫ノ宮は救いたいと望んだだろう。その願いを「君にははっきりとした意思がある。それをぶつければいい。弁護士として。娘として」と明墨は肯定した。

 第5話ラストでは、ドラマ序盤で接点があった緋山(岩田剛典)が再登場した。闇が深いというありきたりな言葉を使うなら、人間の深層と社会の病理に根差した本作は、底の見えない漆黒の闇だ。けれども、かすかに希望が感じられるのはなぜだろうか。目を凝らすと、黒で塗りつぶされた空間に、ぎりぎり見通せるくらいの濃淡があることがわかる。暗夜をまっすぐ見すえる視線と、その視線の持ち主である明墨が投げかけるものを、どう受け止めるかは私たち次第だ。

■放送情報
日曜劇場『アンチヒーロー』
TBS系にて、毎週日曜21:00〜21:54放送
出演:長谷川博己、北村匠海、堀田真由、大島優子、木村佳乃、野村萬斎
プロデューサー:飯田和孝、大形美佑葵
演出:田中健太、宮崎陽平、嶋田広野
脚本:山本奈奈、李正美、宮本勇人、福田哲平
音楽:梶浦由記、寺田志保
主題歌:milet「hanataba」(ソニー・ミュージックレーベルズ)
法律監修:國松崇
警察監修:大澤良州
©TBS
公式サイト:https://www.tbs.co.jp/antihero_tbs/
公式X(旧Twitter):@antihero_tbs
公式Instagram:@antihero_tbs
公式TikTok:@antihero_tbs

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