aiko、スピッツ、東京事変、BUMP 劇場版『名探偵コナン』の主題歌が30代を狙い撃ち

 現在公開中の『名探偵コナン 100万ドルの五稜星』で通算27作目となる劇場版『名探偵コナン』シリーズ。その歴史は主題歌の変遷の歴史でもあり、これまで劇場版『名探偵コナン』の世界観を27にも及ぶ曲たちが彩ってきた。

 近年ではSNSを中心にどのアーティストが主題歌を担当するのか、その動向にコナンファンだけでなく、音楽シーンでも大きな注目が集まっている。今年はキッドからの予告状という形で主題歌の発表が前日に告知され、SNS上の音楽ファンを中心に予想合戦が勃発。函館が舞台であることから北海道にゆかりのあるミュージシャンを予想したり、自身の推しアーティストの直近の発言などを根拠に願いを込めたりと、さまざまなコミュニティでさまざまなリアクションが巻き起こっていたことが印象深い。そんな映画のヒットと共に注目を集める『名探偵コナン』シリーズの主題歌について近年の楽曲を中心に振り返りたい。

 2021年に公開された『名探偵コナン 緋色の弾丸』では東京事変が主題歌を担当。1998年にソロシンガーとしてデビューした椎名林檎を中心に、2003年に結成された東京事変は2012年に惜しまれながら解散。2020年にバンドの“再生”と共にリリースされたのが『緋色の弾丸』の主題歌である「永遠の不在証明」だ。ピアノのシリアスな音色を軸に展開される大人なバンドサウンドは、刹那的な盛り上がりではなく聴き手をジリジリと高揚させる緊張感と開放感に満ちている。椎名林檎らしい言葉選びが炸裂するハードボイルドな世界観の歌詞は、『緋色の弾丸』においてFBIやMI6といった世界的な情報・警察機関が絡むストーリーともマッチしている。

 銃弾がストーリーの重要なファクターとなる『緋色の弾丸』に相応しい〈引き金〉〈弾〉といったフレーズはもちろん、〈御座形な言葉も凶器となる〉という一節は、同シリーズの『名探偵コナン 沈黙の15分』における「言葉は刃物なんだ。使い方を間違えると厄介な凶器となる」というコナンの名言を想起させる。『緋色の弾丸』だけでなく『コナン』シリーズも踏襲した「永遠の不在証明」は、『緋色の弾丸』のストーリーを渋く締めくくった。

 2022年公開の『名探偵コナン ハロウィンの花嫁』では、1999年デビューのBUMP OF CHICKENが主題歌を担当。穏やかで優しげなメロディラインが印象的な「クロノスタシス」は、特に『ハロウィンの花嫁』における警察学校組を重ね合わせてしまう歌詞が印象深い。〈不意を突かれて思い出す〉〈どこか似たくしゃみ 聞いただとか 匂いがした その程度で〉というフレーズには、諸伏景光、松田陣平、萩原研二、伊達航という4人の悪友であり戦友を亡くした安室透の姿が浮かび上がってくる。その上で〈君のいない 世界の中で 息をする理由に応えたい〉のフレーズを聴くと、盟友たちの遺志を継いで今も自身の正義を貫こうと必死に戦う安室の生き様が見えてくるのだ。『ハロウィンの花嫁』のキーパーソンである安室透のイメージソングとしての趣もある1曲だ。

『名探偵コナン 黒鉄の魚影』©2023 青山剛昌/名探偵コナン製作委員会

 そして、4月19日に日本テレビ系で地上波初放送される『名探偵コナン 黒鉄の魚影』(2023年)の主題歌は、1991年メジャーデビューのスピッツによる「美しい鰭」。ストリーミングの累計再生回数はなんと2億回超え。『黒鉄の魚影』と共に大ヒットしたスピッツの新しい代表曲と言えるような1曲となった。

 楽しげなビートとホーンセクション、キャリアに裏打ちされた堅実なバンドアンサンブル、そして何よりも三輪テツヤによるギターサウンドとボーカル・草野マサムネの歌声がどこまでもみずみずしく響き渡る。そのみずみずしさは『黒鉄の魚影』の舞台となった東京・八丈島の大海原を思い起こさせる。

 〈強がるポーズはそういつまでも 続けられない わかってるけれど〉は、この作品のキーパーソンである灰原のクールなイメージとその内に秘めた人間らしさを見抜くようなフレーズだ。常に黒の組織からの視線に怯えていた登場初期と比べ、シリーズを通して人間らしさをゆっくりと取り戻した灰原の姿はまさに〈壊れる夜もあったけれど 自分でいられるように〉と言えるのではないだろうか。

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