『虎に翼』石田ゆり子の演技には“母の愛情”が滲む 達観した表情に見え隠れする本心
朝ドラ『虎に翼』(NHK総合)のヒロインであり、日本初の女性弁護士で、のちに裁判官となる猪爪寅子(伊藤沙莉)。彼女の最初に立ちはだかる大きな壁として描かれるのが、その母・はる(石田ゆり子)だ。
はるは、寅子には早く結婚してほしいと願う。しかし、女性が男性を立てることを当然のように望まれることや、婚姻制度が女性に不利なものとなっていることに納得できず、寅子は結婚に心踊らない。同性同士の家族ゆえに、窮屈な応酬が繰り広げられてきた。
はる役を演じる石田は、意外にも本作が朝ドラ初出演となる。女性が自由に働くことが当たり前ではなく、女学校を出て結婚し子どもを生むという規定路線しかほぼ選択肢がなかった時代。「そういうもの」とは割り切れず様々な“当たり前”に感じる疑問や思ったことを寅子はすぐ口に出す。そんな娘の話を常に途中で遮ってしまうはる役を石田が演じることで、まさに自己主張ばかりが強い訳ではなく、この時代を生きた女性ならではのしたたかさが滲む。そんな妻を前に寅子が明律大学女子部法科の願書を提出したことを直言(岡部たかし)が言い出せないのも頷けるし、実際この家を取り仕切っているのは間違いなくはるであることが家中に染み付いている。
そして、はるもこの寅子の“なぜ?”に「そういうもの」としか答えられない自分自身のことを不甲斐なく思っているところもあるのかもしれないし、もしかすると、寅子に賛同したくなる自分が顔を出す時があるのかもしれない。自分の合わせ鏡のような寅子を見ていられず、その“正しい主張”に飲み込まれぬうちに話を遮るしか彼女には術がないのかもしれない。
はるがどんどん膨らむ寅子の夢をすんなりと受け入れないのは、何も思い通りにはならない娘を叱責するためだけではない。きっと彼女なりに、娘が行く先々で人より多く傷つくことを先回りして阻止するため、という親心もあるのだろう。それもこれも、自分が女性として強いられた理不尽の途方もなさや、一筋縄ではいかなさがよくわかっているからこそ。確実に苦労する道に我が子が進もうとしている時に、自分だけは嫌われてでも既定路線に娘を引き戻さなければと躍起になっているのかもしれない。