宮藤官九郎が描き続けてきた分類できない人間の複雑さ 『ふてほど』が突きつけた“限界”

 市郎と渚たちが純子の墓参りをしている場面で、娘、母親、先輩、妻といった異なる立場で純子と自分たちは繋がっていると、それぞれが自覚するシーンがある。つまり、純子のことがそれぞれの立場から多面的に描かれ、属性で括れない一人の人間として示されている。

 渚の描き方にしても同様で、属性で簡単に切り分けることのできない人間の複雑さこそが、宮藤がこれまでドラマで描いてきたことで、彼の作家性が強く表れた回だったと言える。だが同時に、家族や友人という身近な存在とは言えない杉山の複雑な心情に寄り添うことは難しいという限界を示した回でもあった。

 渚を心配する市郎が彼女を連れて昭和に向かう場面で第9話は終了したが、最終話では昭和という時代に触れた渚が元気になって令和に帰ってくるのではないかと予感させる。対して杉山の描写はブツ切れとなっており、第8話と同じく苦い後味を残した。

 あえて物語の中で彼女の問題が解決されなかったからこそ、どうして彼女はあそこまで追い詰められてしまったのか? そして、渚たち社員は彼女とどう向き合えばよかったのか? と悶々と考えてしまう回である。

■放送情報
金曜ドラマ『不適切にもほどがある!』
TBS系にて、毎週金曜22:00〜22:54放送
出演:阿部サダヲ、仲里依紗、磯村勇斗、河合優実、坂元愛登、三宅弘城、袴田吉彦、中島歩、山本耕史、古田新太、吉田羊
脚本:宮藤官九郎
プロデュース:磯山晶、勝野逸未
演出:金子文紀ほか
主題歌:Creepy Nuts「二度寝」(Sony Music Labels)
編成:河本恭平、松本友香
製作:TBSスパークル、TBS
©︎TBS
公式サイト:https://www.tbs.co.jp/futekisetsunimohodogaaru/
公式X(旧Twitter):@futeki_tbs
公式Instagram:futeki_tbs

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