『映画おしりたんてい』に親子ファンが夢中になる理由 大人も虜にする“こだわり”をPに聞く

『映画おしりたんてい』Pインタビュー

子供から大人まで楽しめる“映画版”の魅力とは

ーー今回、スイセンを仲里依紗さんが演じられていますが、キャスティングへのこだわりを教えてください。

谷上:特にスイセン役は、キャスティングにずっと悩んでいまして。シナリオが完成した後もコンテが上がってくるまではどんなキャラクターなのか、絞り込みきれなかったんです。ドラマを引っ張っていく、内面が複雑な部分があるからこそですね。逆に前作の『映画おしりたんてい シリアーティ』のシリアーティは、シナリオが出来上がる前から先生が描いてくださったキャラ絵の1枚にすべてが表現されていて、「これは福山雅治さんしかいない!」ってなったんですけど(笑)。今回はコンテが出てきて、ようやくスイセンらしさが浮かび上がってきて「仲里依紗さんしかいない」となりまして。だから、もしうまくオファーが成立しなかったらどうしようかと思いました。

『映画おしりたんてい』仲里依紗のアフレコ&インタビュー映像公開 「すごく忙しい役」

3月20日に全国公開される『映画おしりたんてい』シリーズ第2弾『映画おしりたんてい さらば愛しき相棒(おしり)よ』に出演する仲里…

ーー実際に収録してみていかがでしたか?

谷上:スイセンというキャラクターのイメージが、さらにもう1段階解像度が上がった気がしました。映像って絵と音の両方で成立するものですが、どうしても目で入る情報でしか認識できてなかった部分が、立体的になりました。

ーーキンモク先生は、津田健次郎さんが演じられていますね。

谷上:津田さんの収録の時は、とにかくびっくりしました。元々ほかの作品でも2面性のあるキャラクターを演じていらっしゃるので、キンモク先生もきっとこういう感じなのかなとなんとなくイメージはしていたんです。でも、断然それを上回る凄みがありました。収録する時に用意していた映像があったんですけど、津田さんの演技が、その映像の尺と合わなかったシーンがあったんです。津田さんは合わせようと思ったら合わせられると思うんですがあえてそうしなかった意味を「ここのキンモク先生はこういうふうに喋るんだな」と受け取って、津田さんの演技に合わせて絵を少し変えたシーンもありました。

『映画おしりたんてい さらば愛しき相棒(おしり)よ』

ーー視聴者や観客が一緒に楽しめる謎解きも『おしりたんてい』の魅力です。謎解きの難易度で注力された部分はありますか?

谷上: テレビ版のシンキングタイムを設けるクイズパートは、かなり時間をかけて作っています。やっぱり、ちゃんとテレビの前でついていけるかどうかが大切なので。『おしりたんてい』って、想定している視聴者の年齢幅が結構広くて。ボリュームゾーンは5歳前後なんですけど、下は2歳ぐらいから、大体上は9歳ぐらいまで。だからこそ、文字が読めるようになった小学校低学年〜中学年の子が「私に向けて作られてるものじゃない」って思わないようにしたい気持ちがあって。難易度が低すぎると、多分小学生の子は離れていってしまうので、クイズの中で必ず助け船は出すんだけど、自分で考える余白も残す……その匙加減にいつも注力して作ってます。

ーー一方で、映画の場合はどうでしょう?

谷上: 短編映画の『映画おしりたんてい スフーレ島のひみつ』まではシンキングタイムを作っているんです。だけど単独の長編映画『映画おしりたんてい シリアーティ』からは、もうシンキングタイムはやめることにしました。シンキングタイムを作ると、1回ドラマから頭が切り替わっちゃうので。長編映画ではドラマの中でクイズの面白さを楽しめる形式にしています。なので、映画では謎を解くのはおしりたんていなんです。あとは、宣伝ポスターには小学生にとってちょっと背伸びしてみたくなるような洋画っぽさを取り入れています。

ーー確かにポスターはシリアスな雰囲気が強い印象を受けます。

谷上:というのも、小学校に入ると「『おしりたんてい観てる』って、恥ずかしくて言えないからもう観るのやめた!」っていう子が現れはじめるんです。もちろん、小学生から中学生になっても観てくれる子もいます。ただ、周りを見てTVのおしりたんていを卒業した子も「映画のおしりたんていならいいかもな」って思ってもらえるように意識しました。今回だと、イメージ的には『ドラゴン・タトゥーの女』みたいな感じにしていただきました。

ーー『おしりたんてい』シリーズは、子どもたちからどのような反響が届くのでしょうか?

谷上:視聴者の方の声が直接届くのって、子ども向け作品だとなかなか難しいので、どうしても親御さんや大人の声がメインになる側面はあるのですが……。1年に1回、11月4日が“いいおしりの日”でおしりたんていの誕生日なんです。そこでファンの方に向けたプレゼントキャンペーンをやっていまして。ちょっと難しい問題を解かないとキャンペーンに応募できないんです。そこで、私たちも解けないぐらい難しい謎を出したことがあって(笑)。「もしかしたら、みんな諦めてしまうかも」って思っていたんですけど、自由コメント欄に「家族みんなで話し合いながら何日もかけて解きました」「やっと答えが見つかった時は、家族みんなで喜びました」という声が多くて。あれは忘れられないですね。『おしりたんてい』のファンの方って難しい問題を楽しんでくれる方たちなんだな、と。

子供向けアニメの現状と、作り手としての想い

ーー東映アニメーションに入社して6年経ち、子ども向けアニメの傾向や子どもたちの視聴環境の変化について、どのように感じていますか?

谷上:新型コロナ禍を経て、レンタルビデオ店でDVDやBlu-rayを借りてきて観るという習慣が変化して、配信で映像を観るようになった人が増えましたよね。テレビも相変わらず観られてはいるのですが、子ども向けアニメのテレビ枠が減ってきていることは感じています。ですが配信の影響で、子どもたちが目にしているタイトル数は前より増えているはずです。

ーー日本の作品だけじゃなくて、海外の作品もたくさんあります。

谷上:そうなんです。あとは「何回も好きなものを繰り返し見る」行為も、録画よりも配信の方が手軽にできますし。あとは、映像を観せる親御さんの気持ちとして、機能性を求める方が増えた印象です。

ーーと言いますと?

谷上:コロナでずっと家にいて、お子さんが画面を見る時間が増えた結果、「ただアニメを観ているだけじゃない」映像が求められる傾向が増えた気がします。例えば、食べ物でも完全食ってあるじゃないですか。あれと同じように、「映像を観ながら英語も学べる」とか「手洗いうがいが身に付くようになる」とか、そういう“機能”がついている……「見せてもいいんだ」みたいな安心感が求められるようになっている感覚です。

ーー谷上さんが小学校低学年に観ていた子ども向けアニメを教えてください。

谷上:小さい時は、おじいちゃんがうちに来るたびにディズニーのVHSを買ってきてくれたんですよ。なので家にディズニーのビデオがいっぱいあって、それを何度も何度も観てました。特に好きだったのが『ロビン・フッド』と『美女と野獣』。手書き感もあっていいんですよね。テレビで観ていたのは『美少女戦士セーラームーン』です。初期の無印の時代で『なかよし』も読んでいました。セーラーヴィーナスが好きでした。あとは手塚治虫さんの作品で教育テレビで放送されていた『青いブリンク』です。

ーー当時観ていたアニメーションのワクワク感が今の制作に活きていることを感じる瞬間はありますか?

谷上:子どもの時に観ていた『美少女戦士セーラームーン』で1番残ってるのが、バトルシーンじゃなくて、うさぎとなるちゃんの友情だったんですよね。なるちゃんはネフライトっていう悪役キャラが好きなんですけど、それで危ない目に遭うところをうさぎは助けようとする。あの話はネフライトとなるちゃんの悲恋が中心のエピソードなんですが、当時そのシーンを観て、うさぎの葛藤の方が印象に残って「友達のために頑張れるっていいな」と思ったのをよく覚えています。そういうふうに、小さい頃にアニメで観たものって、子どもにとって大事な価値観として残るんじゃないかなと思います。『セーラームーン』の例がまさにそうなんですけど、作品のどこにインパクトを受けるかって案外わからないものですよね。作品に携わる身としても、視聴者の方が“どこで何を受け取るかはわからない”というのは意識するようにしています。

ーー過去のインタビューで「海外で勝負するなら、日本だったらアニメだよ」と言われたことをきっかけにアニメ業界に入ったとおっしゃっていました。“海外で評価されるアニメ”の共通点について、プロデューサーとしての見解を教えてください。

谷上:過去に、海外のいろんな日本のアニメ作品を買う人たちと話をする機会があったのですが、評価って、批評家が評価するものと純粋にアニメが好きな視聴者の人たちが評価するアニメの2種類あると感じました。それはアニメに限らず実写でもそうだと思いますが、批評家が評価するものは、ストーリー、映像表現、演出、作家性……そういった面でアカデミックな文脈で語れることがあるか。新しい視点があったとか、アニメーションの歴史の中で新しい位置付けを作ったとか。そういう側面を見出せる作品は評価されると思います。海外だと特に監督に対するリスペクトが高いので、監督が自分からそういう要素を発信している人かどうかも大きな基準になると思います。映像作品って、いろんな受け取り方ができるので、その中で「監督が語る」ことが確固たる1つの視点になりますから。

谷上香子
谷上香子

ーーもう一つの軸としてお話に出てきた、“視聴者の人たちが海外で評価するアニメ”という点ではいかがでしょうか?

谷上:“いいものは届く”それに尽きるんじゃないかなと。日本で多くの人の心を掴むものは、海外でもやっぱり掴むんですよね。その点については、日本と海外で実はあまり違いはないと思っています。ただよりリスクが高くなる、制作が完了する前に買われるプリセールスで求められるのは、前作がヒットしてるシリーズや有名タイトル。とはいえ、それも日本でも同じですよね。このスタジオはいつもヒットしているから買うみたいな“スタジオ買い”もありますし。そう考えると、海外と日本でも、評価の軸は似ている部分も多い印象はありますね。

『映画おしりたんてい さらば愛しき相棒(おしり)よ』ファイナルトレーラー

■公開情報
『映画おしりたんてい さらば愛しき相棒(おしり)よ』
全国公開中
声の出演:三瓶由布子、齋藤彩夏、櫻井孝宏、杉村憲司、池田鉄洋、小西克幸、中村まこと 渡辺いっけい
ゲスト:仲里依紗、津田健次郎、二又一成
原作:トロル
監督:セトウケンジ
脚本:高橋ナツコ、成田順
音楽:高木洋
キャラクターデザイン・作画監督:真庭秀明
製作担当:末竹憲
編集:𠮷田公紀
録音:澤村裕樹
音響効果:中原隆太
美術デザイン:増田竜太郎
美術監督:東美紀
色彩設計:森綾
撮影監督:則友邦仁
制作:東映アニメーション
製作:2024「映画おしりたんてい」製作委員会
配給:東映
©トロル・ポプラ社/2024「映画おしりたんてい」製作委員会

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