タイカ・ワイティティによる娯楽作 『ネクスト・ゴール・ウィンズ』の裏にあるものを読む

『ネクスト・ゴール・ウィンズ』を読み解く

 一方、米領サモアのチームのメンバーたちは、サッカーのプレーによって生活が成り立つわけではなく、それまで世界的なスーパースターになった選手が出てきていたわけでもない。トーマスと同じような、「破滅か、栄光か」というメンタリティを持つには、リターンが乏しすぎるのである。本作はドタバタやジョークを繰り広げながら、この両者の隔たりを観客に実感させていく。

 このような価値観の違いによる確執は、あらゆる事業や人間関係にも当てはまる。ある人にとっては、それに人生全てを費やす覚悟があっても、もう一方には人生を彩る一部でしかないという構図は、よく見られるものだ。そんな両者が手を結ぶためには、歩み寄る態度が必要だろう。

ネクスト・ゴール・ウィンズ

 チームの選手のなかではじめに歩み寄りを見せるのは、ジャイヤ・サエルアだ。ジャイヤは当時、男子チームで中心選手として活躍しながら、自身の性自認に基づいて性転換を検討している選手である。選択肢が限られた環境下での切迫感という点において、ジャイヤはトーマスの心情に同調できる部分があったのだと、本作では描かれている。そして、試合のために薬剤でのホルモン療法を抑え、本来の自分の在り方に悩む姿も映し出される。

 ジャイヤの苦境を理解し、心を通わせたトーマスは、会長の説得にもうながされ、クライマックスの試合において、ついに大きな成長を見せることになる。それは、試合に辛い感情や覚悟を反映させ、人生を犠牲にするのでなく、あくまで各自の幸せのために試合をするのだという、メンタリティの変化である。人生に理想や目的を持つことは張り合いになるが、その理想に届かないことが本人を苦しめ、日々を苦痛とともに歩まなければならないのは不幸なことだ。トーマスが出会った島の人々のおおらかさが、そんな不幸のなかにいた彼をも変えていったのである。

 厳しいトレーニングによって米領サモアチームが鍛えられたのは確かだが、ハーフタイムに重圧を解かれたことで、選手たちはそれぞれ、刻々と変わり続ける試合の状況に自分の考えや判断、発想力で臨み、プレーの内容に幅が出てくることになる。そうやって、自分たちの倍の規模の国民を背景に持つトンガ代表と、堂々と渡り合うのである。

ネクスト・ゴール・ウィンズ

 このようなメンタリティは、映画づくりにも共通するところがあるのではないだろうか。ヒットを出そう、賞を獲ろうという目的や信念を持つ監督やスタッフ、キャストは多いが、それが映画を撮る理由そのものになってしまっては、映画を撮ること自体の面白さ、楽しさ、自由な創造性からは離れていくのではないのか。つくり手自身が内容を面白がることができなければ、観客がそれを楽しむことも難しいはずである。

 本作の脚本は、タイカ・ワイティティ自身が共同で書いているが、劇中のトーマスが新たな環境で成長できたように、ワイティティ監督自身もまた、この映画によって自分をあらためて見つめ直し、クリエイターとしての立ち位置を確認し、映画を撮る楽しさを取り戻そうとしたのかもしれない。

ネクスト・ゴール・ウィンズ

 もう一つ注目したいのは、ジャイヤ・サエルア選手が、サモア諸島では「ファファフィネ」と呼ばれるという事実が紹介されていることだ。アメリカやヨーロッパなどのセクシャルマイノリティの考え方とは別に、「ファファフィネ」は、「第三の性」として、これまで尊重されてきた。

 ポリネシア諸国ではそれぞれの言語で、この「第三の性」を表す言葉があり、古来から認知されているのだという。ジャイヤを演じているカイマナ自身も「ファファフィネ」であり、当事者として本作に出演し、ジャイヤ同様にポリネシアの側から発信する多様性への動きに貢献しているのである。

■公開情報
『ネクスト・ゴール・ウィンズ』
全国公開中
監督・脚本・製作:タイカ・ワイティティ
出演:マイケル・ファスベンダー、オスカー・ナイトリー、エリザベス・モスほか
配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン
2023年/イギリス・アメリカ/原題:Next Goal Wins
©2023 20th Century Studios. All Rights Reserved.
公式サイト: https://www.searchlightpictures.jp
公式X(旧Twitter):https://twitter.com/SsearchlightJPN
公式Instagram:https://www.instagram.com/SearchlightJPN/

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