『お別れホスピタル』が視聴者に投げかける“答えのない問い” すべての人が向き合うべき時間

『お別れホスピタル』が描く答えのない問い

 第1話で何より強烈だったのは、辺見が、患者が立て続けに亡くなり無人になった病室の窓辺に立ち、患者のうちの1人である山崎(丘みつ子)からもらった「マームちゃん」を手に、窓ガラスに映る光景を見つめる場面だ。そこには亡くなった3人が一つ所に集い、「マームちゃん」を食べながら談笑する姿があった。その後カメラは、窓の外側から辺見を含めた、彼女たちの姿を映す。

 そうすると、その幸せな光景の中に辺見もまた、いるかのようで、つかの間生者と死者が一つの空間を共有する。でも辺見が振り返るとそこは変わらず無人の病室でしかない。第1話序盤において、生者と死者を分ける境界線のあちら側とこちら側を鮮烈に描いた本作は、その後さらに、「煙草を1本ではなく、3本吸ってしまったから」戻れなかった、まるで辺見と出会った冒頭の会話の続きのようにあっけなく、越えてはならない境界線を飛び越えてしまったかのような「本庄の死」を描いた。

『お別れホスピタル』

 そしてその死は、第3話においてもなお辺見と広野(松山ケンイチ)がその残像を追いかけるように、この物語の全篇を漂い、視聴者に問いかけるのだ。「死ぬって、何だろう」という、老若男女問わず全ての人が、生きていく上で必ず突きあたる永遠の問いを。

 本作は明確な答えを持たない問いと向き合い続ける。岸井ゆきのが丁寧に演じる辺見歩は、ふいに投げかけられる患者からの問いかけに答えることができずに、いつも戸惑っている。医師・広野の率直な言葉や、看護主任・赤根(内田慈)の相手を思うゆえの優しい嘘、患者や患者の家族の心の奥から零れ出た言葉に、時に虚をつかれ、時に言葉を失いながら。

 彼女の真っ直ぐな眼差しの先に見える世界を通して、視聴者は、普段忙しすぎて、いや、忙しいふりをして、考えようともしなかった、大事なことを考えさせられるのだ。家族とは、夫婦とは。愛とは何か。突き詰めれば、「死ぬって、何だろう」と考えることは、「生きるって、何だろう」と考えることだった。最終話である第4話の副題は「未来のわたし」。「わたし」たちのこれからと向き合う時間である。

■放送情報
土曜ドラマ『お別れホスピタル』
NHK総合にて、毎週土曜22:00〜22:49放送【全4話】
出演:岸井ゆきの、松山ケンイチほか
原作:沖田×華
脚本:安達奈緒子
音楽:清水靖晃
制作統括:松川博敬、小松昌代
演出:柴田岳志、笠浦友愛
写真提供=NHK

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