『不適切にもほどがある!』に宮藤官九郎が込めたものとは 「話し合いましょう」を大切に

 また、市郎の変化がなぜ起こっているかにも注目したい。令和の価値観に触れたり、令和のフェミニスト・サカエ(吉田羊)との対話を重ねたりすることでの変化も大きいのだろうが、根本には娘・純子との関係があるはずだ。

 第3話で昭和のエロ番組の公開収録に参加した市郎が番組に違和感を覚えたのも、そこに娘がいたからである。自分から離れていく娘を見て、あらためて娘を一人の人間として捉え、自分との関係を見つめ直していく過程で、市郎の内面に変化が訪れる(むろん、そこには令和の価値観やサカエの言葉、渚との関係などからの影響がある)。そういう意味では、非常にオーソドックスな親子ドラマとも言える。サカエとキヨシ(坂元愛登)の親子関係にも注目したい。

 親子の情愛のように時代によって変わらないものもあれば、時代によって変わるものもある。昭和では当たり前だったことも令和の常識に照らし合わせてダメだったらダメ。だけど、無難な正論だらけで息苦しくなってしまった現代の常識にパンチを浴びせて脳を揺らしてみたい。それが、1986年に死ぬほどたけし軍団に憧れて、ビートたけしに弟子入りするために東京行きのチケットを買った(でも列車には乗らなかった)、16歳だった宮藤官九郎がこのドラマに込めた意図だろう。

 また、「頑張れって言っちゃダメですか?」「一人で抱えちゃダメですか?」「可愛いって言っちゃダメですか?」と続く疑問形のサブタイトルは、宮藤が私淑する脚本家・山田太一の名作『ふぞろいの林檎たち』へのオマージュである。『ふぞろいの林檎たち』は四流大学生たちの視点で、学歴が幅をきかせた社会を見つめるドラマだった。翻って考えると、『不適切にもほどがある!』は、時代からズレたどうしようもないおじさんの視点で、現代の社会を見つめるドラマとも言える。

 不敵なたくらみとオーソドックスなドラマ。その両輪を駆動させて最終回まで突き進んでいくことだろう。観ていて疑問が思い浮かんだら、そのときは「話し合いましょう!」。

■放送情報
金曜ドラマ『不適切にもほどがある!』
TBS系にて、毎週金曜22:00〜22:54放送
出演:阿部サダヲ、仲里依紗、磯村勇斗、河合優実、坂元愛登、三宅弘城、袴田吉彦、中島歩、山本耕史、古田新太、吉田羊
脚本:宮藤官九郎
プロデュース:磯山晶、勝野逸未
演出:金子文紀ほか
主題歌:Creepy Nuts「二度寝」(Sony Music Labels)
編成:河本恭平、松本友香
製作:TBSスパークル、TBS
©︎TBS
公式サイト:https://www.tbs.co.jp/futekisetsunimohodogaaru/
公式X(旧Twitter):@futeki_tbs
公式Instagram:futeki_tbs

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